応分負担と援助と寄附のビミョーな相違
ワリカンかオゴリか、それとも扶養義務?
水は高いところから低いところへと流れていくのが自然の摂理である。おカネもまた、水のような自然の流れに従って、“あるところ”から“少ないところ”へと流れていけば、世の中の景気もここまで悪くなっていなかっただろう。現状、人々の思惑は散り散りに乱れ、あちこちで流れを阻害しているのである。
しかし、特別な関係であれば、逆に、ある思惑でおカネを流そうという動きをすることがある。その典型は、親子関係である。
親会社から子会社へ、子会社から親会社へ、決して利益調整をするわけではなく、市場をシェアしたり、得意分野業務を委託したり、外注等で仕事をまわしたりしているのだが、多くの場合、ここに税務上の判断というメスが入ることになる。
たとえば、販売促進目的で本社の新製品である見本品の無料配布を子会社に委託し、その配布に要する費用を、本社が本来負担すべきものとして子会社へ支出した場合はどうだろうか。子会社の事業目的が広告宣伝業であるとき、または、販売会社でその見本品を近い将来販売する予定であるときなど、事業的な関わりのあるケースであれば、リーズナブルな行為として見られなくもない。
しかし、そうでないケースのときはどうか。その支出した金額は実費弁済に相当するくらいの金額であるか。無料配布を完了した時期はいつで、支出した日はいつで、共に事業年度内に行われたものか。そもそも本社でやるべき販売促進活動を、何故、子会社にしてもらったのか。その理由に、妥当性、合理性があるか、etc…………
「つまり、子会社の事業目的にない仕事なのに、子会社の業績が悪いから、何か仕事をさせて収益計上させてやったということですな」
ズバリ核心を突いたのは三宅三郎管理チーム長である。
「ご明察の通りです」
率直にそうこたえたS税理士。
「世間にあふれているよくある話ですな」
「銀行でもやってたのか?」
「いやいや、融資先にあった話ですなぁ」
「じゃ、チーム長がそういうチエをだしてあげてたんですか?」
「いやいや、ヒントぐらいはいったかもしれないけど、賢明な中小企業経営者が発案実行していたことだと思うね。先生、そうじゃないですか?」
話をはぐらかすようにそういって、三宅管理チーム長はS税理士の方を見てニヤリと笑った。
「そういうことにしておきましょう」
そうこたえて、S税理士も笑った。
「税務上のモンダイって、つまりぃ、子会社に資金援助したってことですか?」
「若いコはぶっちゃけ発言をするねぇ」
「いやいや、問題点をちゃんと把握できるということはいいことですよ」
「先生、実費弁済以上の金額を払っちゃったらモンダイなんですよねぇ」
そう得意そうにいった玉木優香経理チーフ。
「まぁ、モンダイになるのは過大かどうかってことですからね。出しすぎだと、税務当局の見方からすれば、寄附金じゃないかと…」
「寄附金って意味がわかんねぇよな。タダでやったわけでもないだろうし」
首を傾げてそういった真高泰三社長。
「実質的にそうだってことなんでしょうな、ほんとの料金より余計に払った分が」
「税法用語って感じ?」
「税務当局は相当な理由なき資金援助を寄附金、といっていると思ってください」
「でも、見方の問題だろ、当事者同士は仕事するんだから、当然利益を含んでの価格で取引して双方納得していれば、ビジネスとして成立してるんだし、なんで税務署に文句言われなきゃいけないんだよ」
「子会社だからっていうことで、実際のコストをかなり上回る金額だったら税務署は黙っていないということでしょうな」
「俗に、2割増しは許容範囲内ですが、2倍だと過大だと見られるといわれてますけどね」
「ふ〜ん、そうかな、ウチの商品に粗利50%以上のものはあるよな。そういうのはコストの2倍以上で売って過大価格になるのかね」
「取引内容にもよるんですよ。それに第三者と子会社の違いを見逃さないってことと…」
「子会社だからぁたくさん出してやったって見ちゃうんですね」
「まぁ、他の事例だと、給与負担金の差額なんかも割とモンダイになりやすいですね」
「とおっしゃいますと?」
S税理士の切り替えにすばやく反応したのは三宅三郎管理チーム長である。
「つまり、出向先の会社が、出向元の会社で払われている給与の額を超えて給与負担金を払っているケースですね。その超過額は給与負担金ではないと見られますから…」
「なるほど。出向先が子会社で出向元が親会社のケースが考えられますかな。こっちは子会社の業績がいいからあり得る話ですな」
「だからそうするってことだとモンダイなんですけどね」
「利益還元? ですよね」
「ただ、超過額に合理的な理由があればいいんですね。たとえば、出向者が技術者でその特別な技術に対する対価であれば技術指導料とか、逆に給与負担金を払っていないときでも、その出向者は親会社の仕事だけを子会社でしているとか、納得できる理由があればいいわけですね。調査でそれを見つけられたときに、証明する文書、契約書とか覚書なんかを用意しておいた方がいいでしょうけどね」
「出向者の仕事の金銭的評価の尺度が出向元の会社の給料だけってのがちょっと…」
「いや、適格退職年金の掛金があればそれも含めていいことになってますし、社会保険料だって考慮すべきでしょうし…」
「なるほど、そりゃそうでしょうな」
「でも、人材を提供して利益を含めた対価をもらっちゃいけないんですか?」
「それ、経理チーフの素朴な疑問?」
「だって営利企業なんだし、法人は利益追求をし続ける存在なんでしょ」
「ま、人材派遣業ならそうするでしょうね。出向ってのは身分が出向元の会社に残ったままですから、その違いですね」
「ふ〜ん」
「要するに、どんなケースでも大目に払ったときに、超過額にマトモな理由があるかっていうことがポイントなんですね」
「それ次第で、妥当な金額なのか、応分負担なのか、資金援助なのか、寄附金なのか…」
「それこそ、見解の相違って感じ?」
「ただ、過去の税務調査でモンダイにされなくても、今これからの税務調査でモンダイになって否認されることもあり得ますしね」
「ま、俺なら余計に出さないけどな」
ポツリとそういった真高社長のひとことに、一同、黙って頷いた次第である。
(続く)
[平成15年8月号]
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