期間損益計算の真実と実態

オープンユアアイズ、で、何が見えたか?
 釈迦に説法で恐縮だが、期間損益計算とは収益は実現主義で計上され、費用は発生主義で計上される。このように認識基準は異なるが、その適正性を確保するために費用収益対応の原則を採用している。これにより、実現主義が当期の期間収益を確定させ、期間発生費用の中から期間収益に対応するものを期間費用として、その差引きで期間損益を計算させているのである。
 企業活動は休みなく継続しているのに、期間を区切って損益計算をするのであるから、期末日前後の取引について期間損益計算の原理原則通りに百パーセント実行されているかどうか、各々企業ごとに個別事案を見ないと実態はわからない。また、各々企業ごとの個別事情で、独自の、個別的な期間損益計算が行われていることも散見できる。
 その独自の個別的な事例は、大胆なモンダイから微妙なモンダイまで、一目見ただけでわかることもあれば、何らかのモノを比較検討すればわかることもある。それらのモンダイが税務調査のときに質問のターゲットにされ、税務上是認されるものか否認されるものか、キビシイ追求を受けることになるのである。ある税務調査官の発言を借りるならば、期末日前後の費用収益対応のチェックは税務調査のキホン、とのことで、会計処理の誤りや会計処理の“恣意的な部分”がはいり込みやすいトコロだということなのである。
 もちろん、利益調整・利益操作となるような行為は慎むべきであり、逆に、租税法律主義の下での節税対策は遠慮することなく実行されるべきではあるのだが………。
「今のご時世だとむしろ益出し操作をしているところが多いでしょうな。営業利益の出ていない会社だと銀行融資ストップですからね。赤字決算で資金ショートしてイッパツ倒産してしまいますよ」
 淡々とそういったのは元銀行員の三宅三郎管理チーム長である。
「あたしのトモダチの会社なんてぇ、露骨に経理操作をやってるって」
「たとえば?」
「たとえばぁ〜、未払金、未払費用を計上しないとか、売上を前倒しするとか、在庫や仕入割戻しを水増し計上するとか」
「すごいな」
「でも、ミエミエですよねぇ先生」
 玉木優香経理チーフにそう訊かれて、
「そぉ〜ですねぇ」
 こたえにくそうにS税理士は苦笑してそうこたえた。
「今いった操作は粉飾ですけど、原則、やっちゃいけないことですね」
「実際その通りなんですけどね。う〜ん、建前なんですよね。益出し操作でも程度の差で、許される許されないが決まりますかね」
「現場の本音はそうですね」
「先生、そんなこといっていいんですか」
「いや、失言でした。取り消します」
 玉木経理チーフに冷やかされて、S税理士がそういった。
「いやぁ、今日は社長もいないし、ここだけの話で、おおっぴらにいわなきゃいいでしょう」
 真高泰三社長は、本日、大事な商談で不在である。
「じゃ、チーム長、ウチも何かやってるみたいじゃないですかぁ」
「ウチはルール通りにやってるじゃないの、先生、そうですよね」
「そうですね。おっしゃる通り」
「まぁ、売上総利益までは会社の責任という考え方もありますけど、僕の経験じゃそこまでの範囲内で多少のチョーセイはよくある話でね、先生、税務署がそういうチョーセイを見つけるとどうしますかね?」
「益出し操作ですか?」
「えぇ」
「見つけても、修正させたという話は聞いたことないですね」
「税務署がとやかくいうモンダイじゃないってことですかな」
「まぁ……」
「利益を減らす操作だとモンダイになっちゃうんでしょ?」
「大問題になりますね」
「な〜んか、ゲンキンな反応って感じ」
 そういって笑う玉木経理チーフ。
「仕入れや外注費の架空計上とか水増し計上なんかはモッテノホカですな」
「それは脱税事件にもなりかねませんよね。最近、税務署の対応がキツクなったと思えるものは、代表者の親族である使用人給与、かな。その親族である使用人に勤務実態がないと否認されているようですね。考えてみれば当然のようですが、割とこれまで見落とされがちだったんですけど、会社に来て仕事をしていないと出社の有無という形式的な判断で、一般従業員との勤務状況が違って時間的な拘束がされていないんでダメだってことですね」
「そういう大胆なモノじゃなくってビミョーなモンダイはどうなんですか?」
「う〜ん、ビミョーねぇ……」
「ウチで3月に払った前払保険料なんか…」
「短期前払費用ですね」
「これは合法ですな」
「というより、期間対応させなくてもいいと通達で認められた特例って感じですかね」
「あれは、他の例で地代家賃やリース料、支払利息があるんだけどぉ、支払利息でも借入金と外貨預金みたいにひも付きの見合い関係のときは適用されないんですよね」
「エライね、ウチの経理チーフは四ヶ月前のことなのに記憶力抜群」
 そう冷やかし発言をした三宅管理チーム長。
「これを悪用して、支払ベースで経費で落として利益の繰延べをやっちゃいかん、と歯止めもありますな」
「三宅さんもよく憶えてるじゃないですか」
 はっははは………と得意そうに笑う三宅管理チーム長。
「先生、だから収益との対応関係が大事なんでしょ。そうすると、原価性の高いコストはダメってことなんですか?」
「いきなりムズカシクなりましたね。まぁ、仕入れに該当するようなコストに短期前払費用はないでしょうしね。でも、役務の提供を受けるためのコストの中には、業種によっては売上に直接的に対応するリース料とか広告費とかってありますよね」
「ウチの一部門がそうですなぁ」
「そういうコストが短期前払費用になるだろうかって…」
「ビミョーですねぇ〜」
「税務署とすれば、課税上弊害が生じない範囲内で、というシバリがありますからね」
「いくらなら弊害がないんですかね?」
「そう考えないで規定の趣旨を積極的に考えて結論を出しましょうよ」
複雑な事情を抱えて、規定通りにやらない、という中小企業の実態をどう見ればよいのか。

(続く) 

[平成15年7月号]

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