いま、そこにある増税の布石
サイレントマジョリティーの不安と不満。
本年の税制改正は、『あるべき税制』を目指すべく抜本改正の議論がなされ、決定されたものである。泥沼化しつつあるデフレ不況下で、財政逼迫にもかかわらず、政治的な配慮もしたうえで、経済活性化のための先行減税方針が採用され、現在、実施されている。
その減税効果はさておき、気になるのは、これからの増税効果である。酒税・タバコ税はともかく、配偶者特別控除の上乗せ控除部分が廃止されて、個人の所得税負担はアップする。また、賞与分の社会保険料の負担が増えることも確実で、どちらも給与所得者にとっては手取額のマイナス要因にしかならない。
法人にとっては、消費税の免税点の引き下げ、同じく簡易課税制度の適用上限の引き下げ、そして新たに導入されることとなった外形標準課税が脅威の種になるだろう。
外形標準課税は法人事業税の課税標準となる基準を改正するもので、増税を目的とするものではないといわれている。地方自治体の安定した税収確保という導入理由以外にも、行政サービスに対する経費として負担する税であるため、利益法人であろうが、欠損法人であろうが、事業規模に見合った税負担を薄く広く分担する仕組みに是正することが、税負担の公平性の観点から重要だ、という導入理由もある。本音と建前の両建て理由なのである。
しかし、現実的には、外形標準課税による納税額が以前の法人事業税より増えて、税負担が増える企業が多ければ多いほど、企業経営に与える影響が甚大であることに間違いはなく、結果的に増税目的が達せられたということになるだろう。
「平成16年4月1日より適用されるのは資本金1億円超の大会社ですが、その対象を中小企業にまで広げてくることは充分予想される話ですなぁ」
そう切りだした三宅三郎管理チーム長。
「法律って新しくつくるのがタイヘンで、いったんつくっちゃうと逆に改正ってカンタンにできちゃったりして…」
「スルドイご指摘ですね」
「そうですかぁ、請け売りなんですけどぉ」
「今日は正直だなぁ」
照れ笑いをする玉木優香経理チーフ。
「ワケわかんないうちに決められてさ、これから先ワケわかんないうちに中小企業も払わなきゃならなくなるんだろうな。試算すると、三宅、ウチの場合はどうなるんだ?」
不満タラタラという感じでそういった真高泰三社長。
「まだ計算してませんけどね。年間の利益が5000万円を超える黒字会社は減税になり、赤字会社では赤字が多くなるほど増税になるというアンケート結果があるそうですね。先生」
「そうですね。でも、ケースバイケースですから、それぞれの会社ごとに、付加価値割、つまり、報酬給与額と純支払利子と純支払賃借料との合計額とその事業年度の単年度損益との合算額を基にして算出される税額と、資本割の税額を試算してみて、減少した所得割の税額との比較で判定することになりますね」
「今回決められた規定では、高収益で支払利息の負担が少ない法人は減税になるんですね」
「ウチがそうだよな」
「今はそうなんですけどね、社長、これから先のお話ですからね」
「弱気ですね。三宅さん」
「そんな姿勢だとやっていけねぇぞっていってんだけどな」
そういって、真高泰三社長は三宅管理チーム長を横目で睨んだ。
「資本金が大きい法人は負担増になるんですけどぉ、ウチは1000万だから資本割の税額はたいしたことないんですね。でも、人件費が大きい労働集約型のサービス業ですからこれは影響大かなぁ」
「それから金利負担が大きい法人も影響大っていわれてますけどね」
「所得割の税額が減少したことで、企業の収益性を向上させることや経営の効率化にプラスになるっていわれてますけど…」
「税金の減少だけで収益性の向上や経営の効率化が実現するわけではないでしょうな」
「もちろんですね。所得が大きくなればなるほど減少税額も大きくなるといっても、決してそうしようという動機にもならないし、逆効果的に所得が少なくなったり、赤字になれば納税負担が以前より増えるというプレッシャーにはなるでしょうね」
「いやぁそりゃなりますよね。ますます赤字は出せないという意識を経営者に持たせる効果はあるでしょうな。赤字で払う税金なんてペナルティみたいなもんですよ」
「ということはぁ、赤字をだすのは会社じゃないってこと?」
「極論すると、そうなるかな。企業には固定費負担になって重くのしかかることになりますけどね。ただ、三年以上連続して欠損の会社には徴収猶予の特例があるらしいですね」
ふ〜んといって考え込む玉木経理チーフ。
「七割の赤字中小企業は今のうちに黒字体質に改善しておかないと、導入後はもっと苦しくなるでしょうな」
「三年以上連続して欠損だと会社が残ってるかどうか疑問だけどな。ま、赤字を出さない経営努力はするけど、不透明な時代に弱者救済をしないようなものをよくつくったよな」
「いまの社長の発言こそ、数多くの中小企業の社長さんたちの本音になるでしょうね」
「シビアになる一方って感じ………」
「人件費、支払利息、支払賃借料、それから単年度損益、これらの要素は経営に直結するものばかりなんで、対策をたてる意味でも試算してみましょうね」
「そうですね。やりましょう、先生」
「他にも、消費税率アップとかって考えなきゃいけないんじゃないですか?」
「うわぁ、タブーを破っちゃったな」
「だってぇ内税表示になるってのはミエミエじゃないですか。消費税を見えにくくして税率アップ分をわかりにくくしようって…」
「見え透いた手だってわかってるんだけど、それを声高にいっちゃうと早まっちゃう恐れがあるでしょ。だから、敢えて取りあげない方がいいんだよね」
「ヨーロッパの付加価値税に合わせたというのが建前でしょうね。この試算はとりあえず分子が新税率で分母を5として掛け算すればいいでしょうか…」
「本音をいうと、あってほしくない話ですな」
「他に法人税や所得税の何らかの特例をひとつでも廃止すれば、カンタンにドッド〜ンと増税になるんですけどね。おおっぴらにいえない話ですよ」
そういって苦笑したS税理士。
「あとでこっそり教えてくださいね」
増税とは経営コストアップに他ならない。その影響は決して少なくないが故に、その予想されるタックスコストを是非とも試算すべきではないだろうか。
(続く)
[平成15年6月号]
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