知らぬ間に、いつの間にか、さりげなく!?

プロジェクトXになれない税制改革。
昨年、与党三党によって発表された平成15年度税制改正大綱で、マスコミ報道によって大きく取り上げられていたのは課税最低限や贈与税・相続税の新制度であったと記憶している方々は多いだろう。しかし、そのようにあまり話題にはならなかったが、重要な改正が消費税にあったと気付かれた方々も少なくないのではないだろうか。
その改正とは、消費税の免税事業者になる課税売上高が3000万円から1000万円に引き下げられ、簡易課税の適用要件となる課税売上高も2億円から5000万円に引き下げられる。これで、確実に、納税義務者がグ〜ンと増え、かつ、簡易課税から原則課税になった納税義務者の納税額は増えることは間違いない。税率アップの前の増税ともいえるだろう。
どちらも、平成16年4月1日以降開始課税期間から適用される予定である。
もちろん、これらの改正が長年の懸案である益税問題を解決すべく考えだされたことはわからない話ではない。しかし、このタイミングはバッドなのか、グッドなのか。かつて、3%から5%(地方消費税を含む)に税率アップされたときに、他の国民負担増加政策で、バッドタイミングと批判されていたのだが、再び、その轍を踏むのではないのだろうか。
原則課税で税抜き会計処理をしていると、納付すべき消費税額は、仮受消費税a/cの数字から、仮払消費税a/cの数字を引くと、ほぼ近似値で把握できる。わかりやすいといえばわかりやすいが、累積していく予想納税額が雪ダルマ式に増えていくのを見て、さて、納税義務者はどのような気持ちになるものだろうか。
「あ〜〜ぁ、術中にハマったって感じだな〜、トンデモナイ税金だぁ〜〜〜」
決算月を迎え、試算表を見ながら、そういって嘆く真高泰三社長。
「消費税の納税が多くなるのはサービス業の宿命ですかねぇ。いやはや、売上げは伸びている分、ほ〜んと消費税も増えてるんですよね。当たり前なんですけど」
「だから減らす方法を考えろっていってるじゃねぇか」
「減らす方法っていったって、ねぇ先生、何か買うかしかないでしょう?」
困ったような顔をして、S税理士に助けを求めた三宅三郎管理チーム長。
「費用のかなりの部分を占める給料は、消費税法上の不課税ですからね。外注費とか人材派遣料、委託料は課税仕入れになりますが、社内のマンパワーで何とかしていると、課税仕入れは増えないですよね」
「それなのに、無駄ガネは使うなって指示もあるから…」
 ボソッとそう呟いた玉木優香経理チーフ。ムッとなって彼女を見た真高泰三社長。
「まぁ、うまくできてるんですな。消費税という法律が」
「気付かれずにさりげなく払わされているというのが消費税なんでしょうね」
 その場をとりなすようにいった三宅管理チーム長にあわせて、S税理士がそうこたえた。
「今年の改正案は免税事業者のレベルを下げといて、ここで納税義務者を増やしておいて、消費税の納税に馴らしておいて、馴れたところで税率アップという深慮遠謀が…」
「三宅さん、読みが深いですね」
「消費税が増えるんなら、行財政改革をもっとやって歳出を減らすとか、法人税所得税か年金保険料を減らすとか、セットで考えてもらわなきゃ納得できないよな」
「社長のおっしゃるとおりなんですが、いずれにしても、消費税の話は政治絡みの話になって、時事放談になりますよね」
「飲み屋のウサ晴らしって感じですか」
 そういって笑った三宅管理チーム長。
「先生、消費税の免税事業者から課税事業者に変わって気をつけなきゃいけない規定ってあるんじゃないんですか?」
そう話題を変えたのは玉木優香経理チーフ。病みあがりのせいか、今日はおとなしい。
「そうですね………、免税事業者から新たに課税事業者になった課税期間に、免税事業者のときに仕入れた棚卸資産があるときは、期首商品棚卸高の棚卸資産をその課税期間の課税仕入れとみなして仕入税額控除の対象とする、つまり、期首商品棚卸高の控除対象仕入税額を控除できるというみなし規定がありますが、これなんか見落としてしまう恐れがあるでしょうね」
「へぇ〜、何か特例中の特例みたいですね」
「でも、ちゃんと法令で定められているんですよね」
「通常は期首商品棚卸高から消費税を抜くなんてゼッタイあり得ないから忘れちゃうかも…」
「専門家だって見落としやすいものですよね。こういうのを落とし穴のような規定という人もいますが…」
「思わぬときにハマっちゃうって意味ですか」
「そうですね」
「税法ってそういうの割と多いですよね、先生、知らないとダメっていう…」
「最近の有名な事例では、同族会社の留保金課税の不適用の規定ですね。付表を付けなければ適用がないというのは、失念するとダメということで、災害というやむを得ない事情以外に救済措置がないんですね。同じような付表でも、特別償却は一年目に失念しても特別償却不足ということで翌年受けられるものもあって、実質的には2年間の適用があるのに…」
「規定によって差があるんですね」
「これで、課税の公平といえるのかどうか疑問だという意見もあるんですよ」
 黙って頷く三宅チーム長と玉木チーフ。
「さっきの棚卸資産の消費税が抜けるってのはなんで? 俺、わかんねぇな」
 思い出したようにそう訊ねてきた真高社長。
「法令による強制力、とでもいいましょうか。私見ですが」
「そういえば、免税事業者や事業者じゃない消費者から仕入れても、会社側では仕入税額控除の対象となるって規定もありますよねぇ」
「ほぅ、経理チーフはよく知ってるねぇ」
 そういって冷やかした三宅管理チーム長。
「それは基本通達ですね。かと思えば、免税事業者の売上総額には除外すべき消費税額に相当する額が存在しない、という判断が示された判決もありますよね」
「それも強制力のせい、ですか?」
「わかんねぇな、ぜんぜんわからん………」
 そういった真高社長の身体から、突然、着メロが鳴った。『地上の星』である。♪〜〜♪〜〜♪ 暫し、聞き惚れる三人である。
「ちょっと失礼」
 そういって立ち上がり、真高社長は応接室から出て行った。
「強制力でも法律政令ならやむを得ないんでしょうが,通達で強制されていいのかという疑問がありますよね」
「消費税って、ムジュン? があるんですね」
矛盾があっても、それから逃れることは現状できないのである。

(続く)

[平成15年3月号]

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