惜しみなく、TAXで奪われないためには
  

 ハッピー・リタイアメントで安心相続。
 不動産を多く所有する地主さんに対して、いわゆる税金対策としての法人を設立するというのは、基本型の対策、定番中の定番である。不動産保有会社、或いは、不動産管理会社、これらを節税対策会社、といってしまうと、ミもフタもないので、財産管理会社と捉えるべきだろう。決して税の逋脱を意図するわけではなく、あくまでも資産収益に見合った適正な納税を実現するために、適法に存在しているのである。
 どちらも、かつてのバブル景気、インフレ経済が背景にあるか、現在の資産デフレが背景にあるかで注意すべきポイントが違ってくる。特に、前者の不動産保有会社は銀行借入を伴うので、その返済計画の実現性を、収益が右肩下がりになることも含めて検討すべきである。
 不動産は立地の良さと収益性の高さと継続性があれば、何のモンダイもないのだが、そこまで条件に恵まれた不動産はそれほど多くはないだろう。それぞれの不動産にそれぞれの個別事情があり、それらを生かすよう利用形態を考えなければならない。
 真高泰三社長の父の病状も最近持ち直し、具体的に相続対策を検討することになった。所有する不動産は、アパート、駐車場、貸倉庫、資材置き場、農地、かつて農地だった荒地、空き地となっている雑種地、山林である。収益性等を総合勘案して、新規設立する法人は不動産保有と不動産管理の両方を目的とする方針が固まった。しかも、長期的展望を持たせるために、株主は、現在、大学四年生、真高社長の兄の長男イチロー君、一人だけにすることにした。彼は、跡継ぎとして真高社長の父の覚えメデタイ存在だそうである。
「資本金200万円でスタートできるというのも、当節、法律が有利に働きましたなぁ。中小企業挑戦支援法、といいましたかね」
そう切り出したのは三宅三郎管理チーム長。
「5年もありゃ利益も出るプランだし、あと800万増資するのは簡単だしな、万が一のときはイチローに現金贈与というウラワザもあるしさ。ただ、地元国立大学に行ってるイチローは性格が俺に似てて、跡継ぎなんで財産管理会社は引き受けていいけど、どうせなら違うビジネスをやりたいともいってるんだ」
満足そうにそうこたえた真高泰三社長。
「それはそれで考えればいいですね。新会社は同族会社でも設立10年以内なんで留保金課税不適用制度が受けられますし、財産管理会社でほぼ間違いなく資金に余裕が出るでしょうから、それを活用するということで…」
「社長もうちの会社も出資しないんですけどぉ、どうしてですか?」
割り込んでそう訊ねてきたのは玉木優香経理チーフである。
「社長が出資しなかったのは社長の直系尊重というご意思のためで、また、敢えてITシステムが出資しなかった理由も同じで、もし、親子会社になった場合、余計な税務モンダイがあるからなんですね」
 そうこたえたS税理士に、うんうんというように頷く真高社長と三宅管理チーム長。
「ふ〜ん、たとえばぁ、出向者の給与負担金とか、資産の無償または低廉譲渡、逆に高額譲受けとか、あとは………金銭の貸借、無利息貸付ぐらいかなぁ」
「勉強してますね、他にもあるでしょ?」
「う〜ん……、資産の貸付ですかぁ?」
「そうですね、給与負担金に類する経営指導料、技術指導料の金額的多寡とか、債務超過解消を目当てにした資産の無償または低廉譲渡や貸付、売上割戻し、リベートの授受、決算期末の特別リベート、債権放棄や貸倒損失等々、恣意的な取引はいっぱい考えられるでしょ。それがマズイことになるんですね」
「同族会社の行為計算否認の規定ですね」
「税務署のウラワザですな」
「ま、ITシステムも今後関わりが出てきたら、その辺は気をつけなきゃいけませんね」
「売れる土地は売ろうということで三人の合意もできてるし、親父は黙って聞いてただけだけど、兄貴が土地の大半を相続して、それを管理運用していく会社が直系の孫のイチローのものだと文句のつけようがないよな」
「そりゃそうでしょう、お父さんの希望通りじゃないですか。ただし、財産管理会社の社長は、真高泰三社長、専務が事務担当のお姉さん、イチロー君は当面経営者見習いなんで平取と、いやぁ、バランス取れてますなぁ」
 笑顔でヨイショした三宅管理チーム長。
「ぶっちゃけた話、給料でもらう方が有利ですよね。永く続けてもらうことを考えると尚更のこと、キャッシュだし、面倒がないですよ。お姉さんも同じように考えるでしょ」
「それにお姉さんの旦那の銀行から借入れするんでしょ。旦那の営業成績も上がるし、イイコト尽くめですなぁ」
「でも、不動産関係の会社ってあんまり経費落とせないんじゃないんですかぁ?」
そういって水を差した玉木経理チーフ。
「そうだな、役員報酬、給料、車両費用、保険料、交際費、その他管理関係の諸費用等…」
「あと減価償却費とか固定資産税、くらい?」
「税務署は管理料と管理業務の妥当性にチェックを入れたりしますし、まぁ確かに経理チーフのいう通り経費は少なめですけどね」
「サブリースだと簡単ですが、もっと経費は少ないですな」
「気になるのはさ、賃貸物件は少なくとも利回り10%以上ほしいところだったんだけど、田舎で地代家賃が安いんで10%に満たないものが多かったってことだな」
「まぁ、社長、それは個別に物件ごとに見直しして売却することも含めて検討しましょう。損益シミレーションもする予定ですし、別会社で経営の多角化を実現するということですよね」
「いやぁ、本業をおろそかにされなきゃいいんですけどね」
 少し心配そうな口調の三宅管理チーム長。
「あと、売却候補の物件は、万が一の相続の時には物納候補でもあるわけで、測量、隣地との境界線チェック等は同時進行ですね」
「うん、手配するよ。ツテがあるからさ」
「これで大筋決まってメデタシメデタシ…」
「でも………このプランって…」
 そういって真高社長の顔色を伺い、次にS税理士の顔を覗き見て玉木経理チーフが
「あちこちの利害関係者に気配りカネ配りしただけって感じがするんですけどぉ…」
 そういって、ゴメンナサ〜イと小声でいった。
「じゃねぇと各人ハンコ押さねぇからだよ」
苦笑してそういった真高社長。そうして、
「スイスのプライベートバンクのあるオーナーがこういったってさ。国家とは、国民の資産を国家の目的のために収奪する機会をいつもうかがっているものだと。国民や民間企業はあくまでも自らの資産を有効活用して自力で生きていかなきゃいけないってことなんだよ」
極論だが、間違いとはいえないだろう。
法人は自らの存続のために,ただひたすらゴーオン、なのである。

(了)

[平成15年12月号最終回]

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