夢に夢見る………税制改革
ドリームジャンボな税制改革とは?
泥沼化しているデフレ不況下で、税制改革が目指すものとしては、政府の基本方針通り経済活性化であることは間違いない。しかし、法人に対しての主たる減税策が、研究開発費の税額控除拡大策というのは、まことに心もとなく、その経済効果に疑問を持たざるを得ないだろう。その規定の適用対象となる会社がどれだけあるかを予想してみればわかることだが、多くの中小企業にとってその規定は縁遠いものと推測される。
現在70%の会社が赤字法人で残る30%の会社が黒字法人といわれている。前者70%の赤字法人に、果たしてその規定が役立つのかどうか、また、30%の黒字法人にとっても適用を受けられる中小企業がどれだけあるのだろう。他にもっと効果が期待できる規定が考えられるのではないだろうか。
さて、旧聞で恐縮だが、昨年の秋、日税連より中小会社会計基準草案が発表された。
その内容を拝見すると、特徴点として、計算方法や判断基準に税法上の規定をかなり準用していること、固定資産の減損処理を明確に打ち出したこと、引当金の計上を必須としたこと、税効果会計を無理強いせずに、キャッシュフロー計算書を望ましいものとして簡易な資金繰り表をそれに代用できることにしたことなどがあげられる。
これを後押しして、景気対策的な効果を出すために、それらの内容を税務上認めるような法律改正が求められると思われるが、いかがだろうか。
「認められる、認められないは別にして、廃止された引当金の復活なんて、必要不可欠なものですよねぇ」
口火を切ったのは、玉木優香経理チーフ。
「財政再建で発想がシブイんで、実現性は低いんでしょうが、経済活性化は中小企業の業績回復からと考えれば必要でしょうな」
もっともらしい発言をして、ひとり納得するように頷いた三宅三郎管理チーム長
「もっといっちゃえば、耐用年数なんて見直ししてもっと短縮してほしいものがありますよねぇ。それに、減価償却資産の十万円基準だって、いくらデフレの世の中だっていっても低いですから、やっぱ、倍額ぐらいに上方修正してもらいたいなぁ」
嬉しそうにそういった玉木優香経理チーフ。
「まぁ、中小会社に業績回復の後押しをするためには、まず、資金繰りをラクにさせるのが第一なんで、固定資産の減損処理を認めてもらって、引当金や減価償却費の計上が大きくなればなるほど資金繰りは助かるし、納税額も減少するし、いいこと尽くしですよね」
話を合わせるようにS税理士もそういった。
「引当金や減価償却の計上をして利益がでりゃいいんですけどね」
「利益が出なくても税金がなくなるんだからぁ、効果あるんですよぉ、ねぇ、先生」
「まぁ……、キャッシュが出ないで費用計上ができて、かつ、納税額が減るので、会社の資金繰りにはダブル効果があるんですね」
「そりゃわかりますよ、僕にもね。効果大だってこともね。これまで中小企業は金融機関依存型経営をしてきたのが実態で、そういう金融機関依存型経営はいまや完全に崩壊しているわけですから、資金繰りに余裕を持たせることが業績回復につながっていくでしょうし、設備投資意欲も刺激されるってこともね」
「金融機関依存型経営はいまや完全に崩壊しているって、銀行員OBの三宅チーム長がいうと、重みがありますね」
そういってS税理士が冷やかすと、
「やめたからいえるんですけどね」
照れ臭そうに三宅チーム長がそうこたえた。
「新聞報道ですけど、去年、銀行に対してだけ適用される規定をということで、金融庁が税制改正の追加要望をだしたんですが、これが今まで我々がいったことよりもっと図々しいものだったんですよ」
「あたしも読んだことありま〜す。不良債権への貸倒引当金を全額損金算入させてほしいっていったんですよね」
「へぇ〜」
「あと、欠損金の繰戻し還付制度の停止の中止とその期間延長、欠損金の繰越控除期間を五年から十年に延長してほしい…」
「特別扱いにしろっていうことですな」
「銀行の自己資本充実という観点かららしいんですが、だったら、金融機関だけじゃなくて中小企業も同じ扱いにすべきでしょうね」
「まぁねぇ、かつては、会社は借金ではつぶれない、支払手形のみが会社をつぶす危険のある唯一の資金調達方法だっていわれてましたけどね。でも、今じゃ貸し剥がしで運転資金等の供給が絶たれて廃業に追い込まれるご時世ですし…」
「借金でも会社はつぶれちゃうんですね。スッゴク世知辛い世の中なんですね」
「だから、借金も支払手形もない経営が会社をつぶさないんですけど、自己資金だけで会社経営をするのはなかなかムズカシイ…」
「う〜〜〜ん………」
揃って腕組みをして、頷き合った三宅管理チーム長と玉木経理チーフである。
「ま、ウチが無借金経営なんだけどね」
これまで黙って聞いていた真高泰三社長がさらっとそういった。
「そうなんですね。お見それ致しました」
そういって、S税理士はあらためて真高社長に一礼した。
「ウチが特殊な存在なんですねぇ」
「サービス業だからこそ自己資金で商売できるんですかね」
「基本的に早くゲンキン回収できる集金システムで商売できているからですよね」
「うん、そぉ〜だな。設立当初は大変だったけど、今は余裕をもってまわってるな」
満足げにそうこたえた真高社長。胸を張っているようにも見える。
「出る杭は打たれるから、社長、そこまでにして。ねぇ先生、ともかく、中小企業向けの税制改正がぜひとも必要だってことですよね」
そういって話題を戻したのは三宅管理チーム長である。
「勝ち組優先税制の中には弱者に役立つ規定が殆どないんだけど、弱者救済税制の中には勝ち組も有効に使える規定があるっていうことですよね」
得意そうにそういった玉木経理チーフ。
「格言的な表現だけど、当たってるかな」
「先生、ほんとですかぁ?」
「これまでの甘い改正希望は、法人税法本法の改正が多いんで土台無理って感じですが、措置法で景気回復するまで何年間かだけ施行してもらえればいいんですよね」
「現実的なお話ですね」
「いい忘れてたけど、個人の所得税率も下げないと、個人消費が増えないし、景気もよくならないよね」
いずれにしても、夢のまた夢、そのまた夢、だろうか………
(続く)
[平成15年1月号]
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