納めた税金を加算減算、イイ加減にして

 ギャップがあることには深〜いワケがある。
企業会計と税務との乖離、とは巷間よくいわれているのだが、もともと、両者の目的が違うためなのである。経営成績や財政状態を適正にあらわすことは、適正な課税を実現することと決してイコールとはならない。実務上、それを基本的な部分で実感するところが、別表四と五の(一)である。釈迦に説法で恐縮だが、別表四は課税所得金額を算出する税務上のP/Lであり、別表五の(一)は税務上のB/Sである。どちらも企業会計による決算上のP/L・B/Sとは似ても似つかない。
最近の企業会計では、期中や決算時の損益計算に税金の数字を可能な限り影響させない、という会計処理を採択するようになり、税金の会計処理を未払法人税等a/cに一本化させて会計処理が行なわれるケースが、しばしば見受けられるようになった。
「税金を納めて損金処理、そして別表四加算。逆に税金が還付されたときは益金処理、そして別表四減算、というのがこれまで当然のように行なわれていて、シンプルでわかりやすい処理だったんですけどねぇ」
 口火をきったのは玉木優香経理チーフ。
「未払法人税等a/cや仮払税金a/cで会計処理したものを別表で加算減算しなきゃいけないって、その理由が僕には全然わからないんですよ。だから、シロ〜トなんですけどね」
自嘲気味に笑いながらそういった三宅三郎管理チーム長。
「そもそも別表そのものがシロ〜ト向けじゃないからですね。あくまでも課税徴収用のツールですから」
あっさりとそうこたえたS税理士。
「シロ〜トにわからないようにして税金を取ってるってことか」
 そう皮肉をいったのは真高泰三社長である。
「そういっちゃうとミもフタもないですよね」
「でも、税金を損金処理すると利益が出ないから、損金処理でない会計処理をすることも会社判断でできる、という自由はありますよ」
「仮払税金a/cのことですよね」
 パッと得意そうにこたえた玉木経理チーフ。
「でも見る人が見りゃぁすぐ益出しってバレるでしょ」
「えぇまぁ……」
「仮払税金a/cで、たとえば予定納税分の税金を処理したときは、別表四で仮払税金認定損を減算し、損金の額に算入した法人税と損金の額に算入した道府県民税及び市町村民税で加算するんですよね」
「そうですね。では、別表五の(一)は?」
「当期中の増減のB増で仮払税金△発生、だからぁ、マイナスの数字で出てくるんです」
「その通り。では、その事業年度の確定申告で不幸にも欠損になって予定納税分の税金が還付されてくるときは?」
「別表五の(一)のCで過払法人税、過払道府県民税、過払市町村民税という名称で還付金額相当の数字で発生して、そのままDで翌期繰越していきま〜す」
「じゃ、翌期の別表ではどうしますか?」
「還付されてきた税金を会社経理で仮払税金a/cを減額する仕訳で処理したときは、別表四で仮払税金認定損戻入として加算し、法人税等の中間納付額及び過誤納に係る還付金額で法人税住民税を減算します。別表五の(一)の方は、繰越してきた仮払税金△数字と過払法人税と過払道府県民税と過払市町村民税がA減で、差し引きゼロになってなくなりま〜す。あ、でも、還付された税金を雑収入にして、損金算入して繰入れた未払法人税等a/cと仮払税金a/cを相殺してもいいんですよね。こっちの方がカンタンでぇ、別表四減算は同じ、別表五の(一)の納税充当金をA減で減額させて相殺してぇ、別表五の(二)の下の方にある納税充当金の計算の、仮払税金消却に記入して未払法人税等a/cを減額するんです」
「タイヘンよくできました。」
 そういって拍手をしたS税理士。ほぉ〜という表情で一緒に拍手した三宅チーム長。真高社長は腕組みをして、う〜んと唸っている。
「さすが法人税法合格者ですね。ただ、そこまではキホンに過ぎないんですよね」
「そんなにヤヤコシイのに、基本?」
 裏返った声でそういった三宅管理チーム長。
「最近の事例では、未払法人税等a/cをつかって加算税延滞税を納税することがありますけど、そのときは?」
「え……、それは…」
「他にも、受取利息、受取配当金の源泉所得税や利子割まで納税充当金、即ち、未払法人税等a/cをつかって会計処理している事例があるんですね。この辺になると応用篇のハツモノじゃないですか」
「それって、やっぱり、減算して、加算するんですか?」
「そうですね。加算税延滞税、源泉所得税の金額は、別表四の納税充当金から支出した事業税等の金額で減算し、前者は損金の額に算入した附帯税、加算金、延滞金及び過怠税で加算して、後者は法人税額から控除される所得税額で加算するんですね」
「予想通りですねぇ、そうなんだぁ」
「じゃ、さらなる応用篇。予定納税分の法人税、たとえば300、事業税が100、住民税が均等割額を除いて60。当期は欠損になるんでそれらが還付されてくることがわかって、決算整理で(借方)未収入金a/c(貸方)未払法人税等a/c460という仕訳で未収入金を計上した場合、予定納税分に限って、関連する別表はどう書きますか? 予定納税の納付時は未払法人税等a/cで会計処理をしてマイナスになっていましたが、その決算整理仕訳でプラスの残高になっています、という条件でね」
 ここで、俄然、三宅管理チーム長と真高社長に注目されたのは玉木経理チーフである。
「それは………」
「それは?」
 そう訊き直したのは三宅管理チーム長。
「何もしなくっていいんじゃないんですかぁ」
「つまり、何もできないってことかな」
 ムッとして三宅管理チーム長を横目で睨んだ玉木経理チーフ。
「残念ですね。別表四では事業税予定分100を減算。別表五の(一)では、当期中の増減のB増で未収入金△460、Dでそのまま翌期繰越。過払法人税300過払住民税60もCで発生してDで翌期繰越。それから納税充当金のB増で460増やす。さらに、別表五の(二)の下にある納税充当金の計算で繰入額の33の欄で460増やすと、別表五の(一)の納税充当金のDの金額と、別表五の(二)の右下にある期末納税充当金の数字が一致するんですね」
「え〜〜〜、別表って奥深いんですね〜」
「僕にはまるでわからない話ですな」
「つ〜か、陰謀だよな、こりゃ」
◇   ◇   ◇  
 それでは、最後の事例で、翌期に予定納税の還付額を未収入金a/cで受け入れる会計処理をした場合の、別表四と別表五の(一)の処理はどのようになるか、読者諸賢の皆様、ちょっと考えてみて下さい。 

(続く)

[平成14年9月号]

税金小噺の目次へ戻る