見えない価値に込められた思惑
クライシスの行く末は行き止まりか?
これまで、○月危機! と報道されることが幾度あっただろうか。その○月が過ぎると、次の○月危機がやってくるというリピートを幾度も経験しているのである。そうなると、危機という声に聞き慣れてしまい、危機の何たるかがわからなくなってしまう恐れがある。危機の実情や実態がよくわからずに、それでも、不安感だけが膨張していく。それが、数ある原因のひとつとして、世の中の不況心理を増幅しているような気がするが、いかがだろうか。
この閉塞状況を突破するためのキッカケにしようとしているのがIT(インフォメーション・テクノロジ−)であり、ツールとしてのブロードバンドである。これは、インターネットの高速・大容量回線のことをいい、道路に喩えると、何車線もある高速道路である。まだ多いダイアルアップ接続はナローバンドといい、それはモデムを使って従来の電話回線でデータを通すもので、道路に喩えると、狭い一車線道路である。この差は、かなり大きい。
ブロードバンドを生かすものは、コンテンツ(情報の中身・内容)であり、爆発的に普及させるものはキラーコンテンツだといわれ、それを動かすものは人知の結集であるソフトウェアである。
このソフトウェアについて、企業会計上においての会計基準と課税当局の見解との間にいくつかの相違点があり、取り扱いが厄介なものになっている。
ソフトウェアに込められたもの、見えない人知の結集についての貨幣的価値を、コストとして認識するにあたり、費用配分をどうすべきか。ハッキリいうと、それを製作者側、もしくは使用者側で考えるか、税の徴収者側で考えるかで、随分差が出るのはやむを得ないことと思うべきなのだろうか。
「中小企業にとっては税金の多い少ないは大きなモンダイなんで、会計基準よりも税務判断の方を優先して、そっちの判定で会計処理してしまいますね。これが本音ですよ」
いきなり、そう結論めいたことをいったのは、S税理士である。
「先生、モンダイは10万円という上限と耐用年数が5年という長さでしょ」
ズバリ、そう指摘したのは玉木優香経理チーフ。
「う〜ん、例外的に20万円までのもので三年均等償却ですからねぇ。原則だと、上限が低くてデフレ的だけど、5年はやけに長いなぁって感じですかねぇ」
やんわりと感想をいった三宅三郎管理チーム長。
「業界慣行だと金額上限ナシで、開発サイクルが、コンテンツにもよるけど、半年からせいぜい長くて3年だろうな」
あっさりとそういったのは真高泰三社長。
「ソフトウェアって無形固定資産っていっても、他のものに比べて、特殊っていうか、異質なものですよね。たとえば、ライセンス契約があるとか…」
「これは、もらう側にはおいしくて払う側にはしぶしぶって奴なんだけどな」
「まぁ、使用権契約にかかる取得費用もパソコン一台につき、ソフトウェア一本として判定するんで、取得価額が10万円未満であれば、何本でも一時の損金になりますね。金額によっては一括償却資産でもいいですしね」
「あと、中古って概念が違いますよね。実際使っていて物理的な減耗はないんだけれど、使う時間が経つとともに陳腐化するもの、とはいうものの、機能的には新品同様にちゃんと使えるという…」
「理論派だよねぇ、ウチの経理チーフは」
そういって冷やかすのは三宅管理チーム長である。
「中古ソフトの耐用年数も中古らしくない考え方をしますよね。中古減価償却資産については簡便法による短縮された耐用年数を使うことがありますが、中古ソフトもそれができるのかどうか、というと、できないんですね。簡便法が使える資産は限定されていて別表第三の無形減価償却資産は含まれていないんですよ。ただ、研究開発用のソフトウェアについては、別表第八の開発研究用減価償却資産に該当するんで、簡便法による耐用年数を算定できるかも…」
「研究開発用ソフトで中古なんて使うかなぁ」
「めったにないだろうな」
「新製品の製造とか新技術の発明用に使うことを考えれば、現実的ではないお話ですかね」
「それに、除却ができるということにもちょっと引っかかりますよね」
「ちょっとって、何に?」
「あたしが思うには〜、除却できるっていうのはつまり〜、使わなくなれば除却できることで、実質的に任意償却ができることと同じじゃないかなぁって…」
「フンフン、もっと詳しくいうと?」
「除却した時点で、これまでの過年度に償却した分について費用収益が対応しなくなるって考えられますよね。5年償却のソフトを2年で使えなくなったんで除却したとしたら、一年目が最大で六十分の十二、除却した年が六十分の四十八、2年間の収益獲得に貢献しているのに二年目は一年目の四倍の費用になっちゃうという…」
「う〜ん、一理ありそうな話だなぁ」
「今って、ソフトのバージョンアップが頻繁にされてますからねぇ。除却だって頻度が高いでしょ。しょっちゅうそ〜んな事例が出てくるんじゃ、5年とか3年とかいう耐用年数の枠決めに意味がなくなっちゃうと思うなぁ」
「どうですかね、先生、玉木セオリーは?」
何故かニコニコして三宅管理チーム長がそう訊いてきた。
「使用者側の理屈とすればそういう論理を盾にできると思いますね」
「じゃ、合格だ」
「はぁっ?」
呆気に取られた玉木優香経理チーフ。
「業務廃止とか、OS変更とか、販売用ソフトの場合は新製品やバージョンアップ等による販売中止などの後発事象で除却になるのは、仕方がないと考えたと予想されますけど、まぁ、それにしても任意償却は恣意的な経理操作につながりかねないし、税収を考えると線引きをしないわけにはいかないという懸念や意図があって認めがたい、と考えて5年とか3年と決めたのかも知れませんね」
「俺にいわせりゃ、ソフトを買ったときに全額コストとして認めるべきだよな」
社長と名のつく人はこういう発想をする人が多いのだが、立場を考慮すると正論だろう。
「政策的に考えると、金額的な青天井が無理で線引きするんなら、必ずや景気刺激策になるんだから、ソフトウェアは300万、う〜ん、気前よく一千万ぐらいまでは一括損金処理を認めてもらいたいかなぁ」
………いま、大切なことはポジティヴシンキング。行き止まりではなく、広い道に出るべく方向を定めることだろう。
(続く)
[平成14年5月号]
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