オ-バ-ラップする営利追求と租税回避行為

コストカッターにとって“聖域”はない!
 外国税額控除の規定を利用した租税回避行為か否かということで、昨年、大阪地裁の判決が出て話題になった日本の都市銀行の外国法人への融資事案。簡潔に内容を紹介すると、外国親会社が他の国にある外国子会社に貸付けていた貸付け債権を、日本の都市銀行が手形貸付の手形を買い取る方法と債権を譲受ける方法で融資を実行し、その結果、日本の都市銀行が受け取った貸付利息に控除されていた外国源泉税を日本の法人税法にある外国税額控除の規定を適用させて、納税額を減少させたというものである。
 課税当局は、手形売買契約等は通謀虚偽表示として無効であり、仮にそうでなくても、当事者の真の意志は「外国税額控除の余裕枠に関する売買契約」と認めるべきで、一連の行為は取引を仮装したものであるとして、外国税額控除を否認(更正処分)した。また、法人税法69条の「納付すべきこととなる場合」とは、内国法人が客観的に見て正当な事業目的を有する通常の経済活動に伴う国際的取引から必然的に外国税を納付することとなる場合に外国税額控除が認められ、かつ、その場合に限定されるべきである。事業目的のない取引から生じた「納付」は法69条の「納付すべきこととなる場合」にはあたらない、と主張した。
 都市銀行側は、客観的事実も揃っていて、通謀したという証拠はないし、租税負担の公平さを欠くのであれば、その拙劣さについて責任を負うべきは立法当局者であり、納税者ではなく、その誤りは法改正によるべき、といういささか過激な主張をした。
 しかし、裁判所は、課税当局、つまり国側敗訴となる判決を出したのである。
「現実的に資金の移動があるんで仮装行為ではないといったことと、銀行が選択した法律関係が真実の法律関係ではないというのは違うよ、といったことは冷静な判断だと思うな」
 納得顔でそういったのは、元銀行員の三宅三郎管理チーム長である。
「それから、経済的合理人として租税の軽減を図ることは一般的に許されていること、営利企業にとって最大の関心事が税引後利益で、税金を企業経営などの利潤追求行動上のコストのひとつとして認識することは当然である、という見解を示したことは納税者イコール企業側に好意的で、企業の営利追求活動にかなりの理解を示したといえるでしょうね」
 そういって同調したのはS税理士である。
「それに、先生。税額控除の枠を自らの事業活動上の能力、資源として利用することを法が一般に禁じているとは解されないってハッキリいってますよね。これってスゴイんじゃないですかぁ?」
 嬉しそうにそういったのは、税理士試験の法人税法と簿記論の合格実績を持つ玉木優香経理チーフである。
「スゴイって?」
「積極的に税額控除の規定を利用していいっていっているんでしょ。これまでは動機不純なものは理由をつけて否認してきたのに…」
「税務署の主観に過ぎない動機不純という判断で、租税回避行為として否認されていることもあるらしいですけど…」
「やっぱり、税務署には“お上”意識が捨てきれないんでしょうね。不当に仕組んで税金を減らすなんてケシカランって…」
「否認のウラにはそういう感情的なものもあるのかもしれませんが、聞くところによりますと一般的には、税法が予定している納税額の減少を節税といい、予定していない納税額の減少を租税回避行為といってますよね。今回の事例は、じゃ、どっちなのかというと…」
「合法的ですから前者ですよねぇ」
「僕もそう思うなぁ」
 珍しく意見が一致した三宅チーム長と玉木チーフに向かって、S税理士がこういった。
「じゃ、あらためて、ポイントを絞って租税回避行為かどうかを検討してみましょうか」
「どうぞ」
「銀行の行なった貸付け行為は架空のものではなく、実態があり、法律上有効であるか」
「おカネも動いているし、貸付け行為の事実がありますから、モンダイないですよね」
「銀行が本業の営業利益獲得のために行なった貸付け行為を、仮装取引だとか、通謀虚偽表示だと認定されるなら、営業活動自体を否定されてしまうようなもので、ナンセンス極まりないと思いますよ」
「う〜ん、OBらしい発言ですねぇ。まぁ、課税当局は、恐らく、手形を買い取ったり、債権を譲り受けたりした小細工が許せなかったのかも知れませんけどね。で、これらに関係しますけど、貸付け行為について、通常では見受けられない法形式が採用されて、不自然、不合理な行為であるか」
「銀行の営利追求行為として、多少の変則性はあるものの、決して不自然不合理ではなく、競業他社の多い激烈な弱肉強食マーケットの中では、むしろ、お手柄といわれるべき営業成果だと思いますね」
「雄弁ですね、三宅さん、今日は…」
「あたしも、銀行がおカネを貸す行為に対して不自然不合理だなんていったら、銀行の存在意義がなくなっちゃうと思うなぁ」
「二点とも課税庁不利ですよね。では、最後に貸付け行為の真の目的は租税負担の軽減以外にないと認められるか」
「貸付け利息にプラスアルファで租税負担の軽減になったわけでしょうからね。副次的な目的といえるんじゃないですか」
「タックスマネジメントで考えれば、税金コスト削減を考えることは経営上当然なんでしょ。外国税額控除は三年しか使えないんだし、使えるうちに使おうって考えるのが普通の思考だと思いますけどね」
「あと、付け加えるなら、税務署の好きな経済合理性がないかと見てみると、この貸付け行為には銀行の本業ゆえに、あるとしかいえないですね」
「今の世の中、利益獲得のためなら、違法行為とならない限り、ダボハゼのように喰いついて営利追求行為をするでしょ。そういう自由な営業活動の阻害要素に、税制はなるべきではないでしょう」
「まぁ、自由といっても企業側は商道徳、即ち、モラルをもって営業活動すべきですけどね」
「それはもちろんのことですよね」
「税金が経営上のコストから隔離された聖域にあるというのは大きな誤りなんですね」
「今回の事例は営利追求行為と租税回避行為とがオーバーラップしていて、どちらの行為の実像がよりはっきり見えるか、ということじゃないですかねぇ」
「俺にはよくわからんが、先生も三宅もさぁ、ウチは払っている税金多いんだから、そういうウマイ手があるんならウチの会社にも活用してさ、コストカットしてくれよな」
 これまで黙って聞いてきた、真高泰三社長の、キツ〜イ、締めとなる本音のご発言である。 

(続く)

[平成14年4月号]

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