バランスシートで見えるモノ見えないモノ
オフ・バランス化で回復するか減退するか。
会計基準の進化が著しい。めまぐるしいほど次々と創出される特化的な会計基準に、果たして、すべてが企業経営に必要なものなのかどうか、中小企業にとっては戸惑うことのほうが多いのではないだろうか。
事業の再構築を実現しようとするとき、数ある対策のうち、有力なものとして不良債権のオフ・バランス化がある。不良債権のオフ・バランス化は、直接償却という方法で、不良債権を帳簿から除外するのである。
さて、オフ・バランスとは事業に活用している資産や負債であっても、貸借対照表(バランスシート)に計上されないという意味である。オフ・バランス取引の具体的な例示をすると、デリバティブ取引やリース取引、他社の借入金の保証、将来的な退職金の積立不足、所有する資産の価値下落などがある。
会計上、リスクがある取引をバランスシートの外に出すことで、企業価値を高めたり、外部の目で見られる評価を高めたり、借入れ金利負担を軽減するなどの効果がある、といわれている。
そこで、企業会計基準の許容範囲内でバランスシートに計上しないことをオフ・バランス化といい、それによって前述した効果を経営上最大限活かそうとするのである。デフレ不況下で、むしろ、逆転の発想的なオフ・バランス経営を推奨・推進して、この閉塞した状況を打開していこうという経営コンサルタントたちもいるくらいだ。
しかし、最近では、デリバティブ取引が金融商品会計基準の原則適用(H12年4月以降開始事業年度)によって、バランスシートに時価評価額で計上されることになり、また、時価会計の導入により、オフ・バランス取引がオン・バランスとしてバランスシートに計上されるという動きもある。実務家にとっては多角的で多元的な会計基準の進化の動向に、休む暇もないような気忙しさを感じさせられるのではないだろうか。
ここで、税法の動きはどうかと見てみると、税法と企業会計とは、今や、対立しているような状況になっている。進化した会計基準に対して、税法はその進化を後方から捉えるように、独自性を保持したまま、自らの価値観を確乎たる尺度として是々非々主義で対応しようとしている。ただ、現実的には是よりも非の方が多いのだが、それは、租税回避を防止し、課税の公平を図るという価値観が絶対的に存在するためなのだろう。
そのため、経営上どれだけプラスの効果をだそうが、法律上の要件を満たさなければ、ダメなものはダメという結果になる。不良債権のオフ・バランス化のうち、債権放棄や法的整理で是認されるものならよいのだが、たとえば貸倒れ否認になれば、別表四加算留保、別表五の一で当期中増となって、翌期に繰り越される。プラス効果を得るには、税金というコストを負担しなければならないのだ。その他のオフ・バランス化も、推して知るべし、である。結果として、税務上のバランスシートである別表五の一に、どんどんオフ・バランスの資産が蓄積されていくことになる。
バランスシートと別表五の一との金額的差異が増えていけばいくほど、その企業の本当の実態はどっちなのか、或いは、どっちでもないのではないかという不安が、ふっと湧いてこないだろうか。
「確かに税務否認されると、別表五の一がオフ・バランスの備忘記録のようになってしまって、不良債権を帳簿から除外したことに待ったをかけられたような感じですなぁ。これじゃ、申告書上は残っていてオフ・バランス化の効果が薄められてしまうみたいですね」
そう率直な感想をいったのは三宅三郎管理チーム長である。
「それぞれの会計基準でそれぞれのバランスシートが作れちゃうんなら、ほんとのバランスシートはどれって感じですねぇ」
小首をかしげてそういったのは、玉木優香経理チーフ。
「うちの社長なら都合よく選んじゃうよな。一番有利でわかりやすいものでいいよってさ」
笑いながら、揶揄するようにそういった三宅管理チーム長。真高泰三社長は本日急用で欠席である。
「まぁ、ほんとのバランスシートはどれって問われたなら、どれもほんとのバランスシートだってことになるでしょうね。それぞれの会計基準の価値観に基づいて作成されたもので、要するに価値尺度の違いから生じた差異がバランスシートに表現されているんですから」
「なるほどね」
「だからぁ、先生、なおさらどの価値尺度で作ったバランスシートがほんとのものなのかってことになるんじゃないですか?」
「う〜ん、というより、選択の問題になるんじゃないかな。どれが正しいのか、誰の目で見てという前提で考えることになるけどね」
食い下がる玉木チーフをなだめるようにそういったS税理士。
「つまり、会社の都合で選べるってことですかね。最もふさわしいものを…」
「いや、一般的には投資家の視点で見て、最も適正なものがベストのバランスシートでしょうね。ふさわしいものというのは、そうですね、経営者の視点になりますかね」
「それじゃマズイんですかね」
「先生、投資家の視点って株式公開している会社でしょ。中小企業は別の視点でもいいんじゃないですかぁ?」
「そうだねぇ、中小企業は納税額の多寡に過敏なほど反応して、それにソ〜ト〜拘束されて会計処理をしている傾向が強いですからね」
「税務署の顔色を窺ってるって感じ?」
「オフ・バランス化が無駄にならないよう…」
「税金って完全にコストになっちゃったって感じですねぇ」
「そうすると、例外的に中小企業の視点というものも考えなきゃいけないですよね」
「そういう動きもありますね。このまま進んでいけば、非上場会社の場合、株の評価額にもかなりの影響を与えますからね」
「変化の激しい時代に中小企業は取り残されそうですね」
「あたしは、とにかく税法を簡素にしてもらいたいなぁ」
「公平さを保ちながら、簡素であればいいね」
「簡素っていえば、先生、先月のホームワークの答は、未収入金a/cであっても仮払税金a/cとおんなじ処理でカンタンだったんですね。予定納税を仮払税金a/cで会計処理して繰り越してきて、翌期に還付された税金を会社経理で仮払税金a/cを減額する仕訳で処理したときの別表処理と同じで、加算減算の両建てになるんですね」
「事実関係をよぉく見るとわかりますよね」
………法人税法22条4項にある『一般に公正妥当と認められる会計処理の基準』の真意を捉え直す時代になったというべきだろうか。
(続く)
[平成14年10月号]
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