ファイアーッ! の声高き2002年
タックスファイアーウォールを是非とも!?
何事にもコンピュータに大きく依存するような世の中に、我々は暮らすようになった。コンピュータには、個人情報から法人や公的機関の情報まで膨大な量のデータが保管されている。それらの中でも公開されて、インターネットを通じて閲覧し、活用できるデータがどんどん増えてきている。また、非公開の情報も、負けず劣らず、日毎蓄積されている。
そのような状況下で重要なのは、情報保管者のセキュリティである。インターネットでつながっているということは、全世界のパソコンとつながっている、ということで、ブロードバンドであれば、喩えていうと、でっかい天体望遠鏡で覗かれるようなものである。ハッキリ、クッキリ、クローズアップで筒抜けの状態で見られてしまうことになる。
それが見られる目的の情報であれば何も問題はない。しかし、見られてはいけないものであれば大変なことになるし、見られる目的の情報であっても改ざんされてしまうと、これまた、大変なことになる。インターネット社会では、どちらの大変なことも起こり得ることなので、ファイアーウォールが必要とされるのである。
直訳すると防火壁。それは、火事に喩えられた、外部からの改ざん攻撃や不正進入によるデータ破壊をくい止める情報障壁のことをいう。何でもアリ、という風潮がはびこり、予想外の出来事が次々と起こる乱世で、どこまで防衛できるかわからないが、無防備ではおハナシにならないことも、残念ながら事実なのである。
さて、このようなインターネット乱世社会をしたたかに生き抜いている、小粒ながら高収益のベンチャー企業がある。株式会社ITシステム、インターネットを利用した情報提供サービスで、当節珍しい右肩上がりの業績の会社である。
「先生、固定資産税が経費にならないっていうのは、ど〜してもわからんですよ。なんでですか?」
社長は、真高泰三、40歳、起業して6年で年商十数億円の会社へと育て上げた個性豊かな人物である。当然、社長個人の年収も、一般サラリーマンのそれと比べて一桁上の金額である。実は、最近、社長の社宅にするために、会社から徒歩で通える距離にある都心のマンションを買った。広くて20ン階の高層にある築浅の中古億ションである。理想的な職住接近とはいえ、社長はベンツに乗って、徒歩より時間をかけて通勤しているのだが。
「引渡し日に固定資産税の精算をしたのはしようがないと思うんですけどね。不動産取引の現場での慣習だし、………でも、固定資産税ってふつう経費になるんでしょ。ま、僕は税金のことはズブの素人なんですけどね」
そういって、合いの手を入れたのは、管理部部長、ITシステムでは管理チーム長と呼ばれる三宅三郎である。真高社長とは同年齢で大学時代の友人、元融資担当の銀行員で、一応ヘッドハンティングで3年前に入社したそうである。
「バブリーな買い物ですから………、でも、その精算金に消費税がかかるって聞いてぇ、あたし、驚いちゃいましたぁ」
ちょっぴり皮肉を交えて語尾上げ口調でそういったのは、27歳の経理チーフ、玉木優香である。彼女は、税理士試験の法人税法合格の才女で、昨年は簿記論に合格した。知的ゲームをエンジョイするつもりで税理士試験を受験しているというナマイキ盛りの中途入社3年目。実質的に日々の経理事務から決算まで、すべてひとりでやっている、ソバカスの似合う(?)小顔の美女である。
「う〜ん、それはですね。精算金は固定資産税そのものではないということと、登録免許税みたいに事後費用じゃないということ、それから土地建物の譲渡対価の一部で譲渡者にとっては原価を構成するものと考えられるから、取得価額に加算するんですね」
困ったような顔でそうこたえたS税理士。
「まぁ、でもこれは税金の解説書の見解ですけどね。異論はありますよ…」
「しっかし、固定資産税の精算であることに間違いはないですよ。税金を日割り計算するんだから正確な金額なんだし」
力の入った真高社長の声は、ワンフロアの社内に響きわたっているだろう。
「先生、何とかなりませんかねぇ〜」
腕組みをして、まぁまぁという感じでそういった三宅管理チーム長。
「買った方の支払額は、土地建物を利用するための利用料になる固定資産税を、日割りで分けあったということになるんじゃないんですか。だからぁ、期間限定のランニングコスト。ね、先生、こっちの説明の方がすんなりと納得できるんじゃないですか?」
「な〜るほど、来年うちが固定資産税払うんだからね。納得できるねぇ、さすが玉木君」
大きく頷いて手を叩くというオーバーアクションで、三宅管理チーム長がそういった。
「これは、消費税の基本通達の方で、不動産売買時の固定資産税の精算金は、建物分については譲渡対価に含まれるので、消費税等も課税される、と課税当局がはっきりさせたことが、そもそものきっかけらしいですね」
「そうそう、消費税がかかるっていわれて、俺もなんでって思ったんですよ、なぁ三宅」
「そぉなんですよ。タックス・オン・タックスになるんで…」
「まぁ……そういえなくもないですね。法人税所得税の方では法令通達の手当てがないようですけどね」
「理屈で考えりゃ、精算金の中身は土地建物の利用料、維持費の精算的取引って感じ?」
まわりの様子を窺いながら、語尾上げ口調でそういった三宅チーム長。
「ガクシュウしましたね、機敏な対応で…」
「あたしのウ・ケ・ウ・リッ」
「先生ッ、Q&Aレベルでこんな大事なことを決められるなんて俺は納得できないよッ」
「限られた期間の保有に起因する固定資産税の精算金は、どう考えても原価じゃなくって期間費用だと私も思いますね」
「精算金で数十万も払っちゃったもんねぇ」
「税金はキャッシュで年に一、二回払うんで資金繰りに影響するんですよ。納税で資金ショートする恐れもあるし、そういう意味でマネジメント上税金も立派なコストなんですよね」
「三宅のいうとおりだよ。うっちは毎年決算で何千万も税金払ってるのにさ、固定資産税の精算金ぐらい経費にして税金まけろよなっていいたいよな」
「決算の税金分のおカネがあれば、都内に3LDKの新築マンションが買えますよねぇ。それも社宅にして、あたし、住みたいなぁ」
一同唖然の、経理チーフ発言である。
◇ ◇ ◇
ここにきて、『改正』の名のもとに課税ベースを広げようかという噂もある。増税である。経営コストアップである。その備えが、火急の事として必要なのではないだろうか。
(続く)
[平成14年1月号]
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