ユウキ凛々LANランRun!
 
 カウントダウンが始まりそうな11月。
 鳴り物入りで始まった特定情報通信機器の即時償却。100万円未満のパソコン等所定の機器を購入した場合に取得価額全額が即、償却費として損金経理ができるというまさしく大盤振舞いのような特例中の特例である。しかし、特定の業界だけに与えるセールスチャンスが景気刺激策として効果的であるかどうかとか、今や勝ち組負け組と色分けされた状況でこの特例を活用できるのは限られた勝ち組だけであって、負け組は結局ない袖は振れないということで活用したくても活用できないとか、政策的効果に疑念のある問題や厳しい現実があってイマイチ活用されていないようである。
 スーパー808でも、先月たまたまデスクトップのパソコンを1台、ラップトップのパソコンを1台購入し、既存の1台を加えて3台になり、森喜久蔵社長と主任と事務員の林菊代の三人が各々1台ずつ使えるようになった。3月に買ったレーザープリンターは三人の共有としてケーブルで接続した。
「プリンターも今回いっしょに買えばやな、センセ、パソコン減税の特例がつかえたんやって?」
「そうなんですよ。同時に設置する附属装置に該当するんですね」
「ふ〜ん、特例があるから買うたんやないしな。どっちもそんとき必要やから買うたんや」
 煙草の煙を吐きながら、森喜久蔵社長は突っ張り気味にそういった。
「場当たり的やけど、しゃ〜ないんや」
 S税理士は黙って頷いた。
「附属装置ってお役所言葉っぽいですよね」
 と笑顔でいった林菊代が
「先生、会計処理は消耗品費で落としていいんですか?」
「そうですね。法律では償却費になるわけですから、会計処理としては、いったん資産計上して減価償却の普通償却額の計算をして、そのあと取得価額に達するまでの金額を特別償却額として計上することになりますね」
「そうしないといけないんですか?」
 不満げにそういって、顔をしかめた。
「法律上はそうせざるを得ないでしょうね。普通償却額は販管費で、特別償却額は営業外費用か特別損失になるんでしょうかね」
「まわりくどくってメンドウなんですね、法律って」
「う〜ん、ちょっと脱線すると、いささか疑問なのは、簿価が0になってもBSの脚注表示の減価償却累計額の数字にパソコン減税分の償却費を加えるべきなのかなってこと…」
「こまかい話やな」
 呆れるように森喜久蔵社長が口を挟んだ。
「コマカイ話ですいませんね、社長。でも、この特例には特別償却の付表二十一があって、尚且つ、減価償却の別表十六の(二)に特別償却額を記入する欄がありますから、そこに記入して普通償却額との合計額が当期償却額となるように記載することになるんですよ。ここで実は困ったことがありまして、特別償却の付表二十一が原則的に対象となる機器一台につき一行記入するようになっているために、たとえばパソコンを100台購入したときには、100行、3行で1枚だから34頁もの付表を申告書に添付することになるという、その必要性に首を傾げたくなるようなことをしなければならないことなんですよ」
「役所らしいわな。やたら書類を出させるっちゅうのは」
「じゃあ、私、伝票書き直しておきます」
 林菊代があっさりとそういった。
「いやぁ林さん、それについても実は疑問がありましてね。これまでいったことをひっくり返すようですが、所定の要件を満たしているパソコンについては、消耗品費などで経理してもいいんじゃないかと思うんですよ。これについては、簿外資産として償却資産税の申告洩れにしないという前提で、基本通達7−5−1の償却費として損金経理をした金額の意義の(6)を援用して考えていいんじゃないかということなんですよ。その通達では、おおむね60万円以下の減価償却資産の取得価額を消耗品費等として損金経理した場合のその損金経理した金額を償却費として損金経理した金額に含める、としているんですね。おおむね60万円と100万円という金額の差はありますが、減価償却資産の取得価額を消耗品費等として損金経理をした場合のその損金経理した金額を償却費として損金経理した金額に含める、という本質的な意味を叶えた会計処理ですからいいんじゃないかって…」
「じゃ、書き直さなくてもいいんですか」
「いえ、今回は普通に会計処理をして、資産計上ということで書き直しておきましょう」
「えっ? じゃあ、はい、わかりました」
 笑いながら、林菊代がそうこたえた。
「まぁ安全策やな。それに無理して今年全部落とさんでもえぇかも知れんしな…」
「社長、鋭いご指摘ですよ。特別償却不足額で来期落とした方がいいかもしれませんしね」
「合法的節税の貯金みたいなもんや」
「それって、先生、利益調整っていうんじゃないんですか」
「そうとも、いいますね」
 とも、に力のはいったS税理士の返事に、森喜久蔵社長も林菊代も笑った。
「あとこの特例でひっかかることは、附属装置について、本体装置と同時に設置するということと、いろんなパターンのあるLANについてなんですよ」
「ウチが仮にレーザープリンターを同時に買っていたらって話ですね」
「そうです。一の計画に基づきとか、本体装置を設置してから相当期間内に設置するとかっていっても、プリンターは買い足すことも買い換えることも多いですから、規定がプリンター購入の実態を反映していないし、もともとプリンターは附属装置じゃなくて独立した一号にすべきだったと思いますけどね」
「ウチみたいに共有にするところも多いやろうしなぁ」
「いわゆるLANで使用するケースですよね。これにしても、パソコンとプリンターとの設置計画が有機的に結び付けられていることを前提で判断するって…」
「ユウキテキ?」
「何や、センセ、そりゃどういう意味や?」
「聞き慣れない言葉でしょ。有る無しの有と機械の機って書くんですよ」
 そういって、S税理士はメモを見ながら
「有機的とは、広辞苑によると、有機体のように多くの部分が集まって一個の物を作り、その各部分の間に緊密な統一があって、部分と全体とが必然的関係を有しているさま、という意味なんですね。ここからイメージされるものがLANなんじゃないですか。LAN上のプリンターが特定のパソコンと対になっていないんじゃなく、各パソコンと対になっているって捉えられると思いますけどね」
「そうやな。ワシの記憶では、この特例は今年の景気対策の一環で税制上の優遇措置なんやから、会社有利に考えられんとなぁ」
 ………税務当局には、同時設置やLANについて、杓子定規な解釈と執行をしないで、景気対策であるが故に景気よく、鷹揚に、できることなら対応してもらいたいものである。それでこそ、『有機的』な景気対策としての効果も期待できる上に、企業も思いっ切り本業に専念疾走することができるに違いない。
 
(続く)

[平成11年11月号分]

(注: 平成14年現在、特定情報通信機器の即時償却の適用期間は終了しております。)

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