ヤワじゃないソフトウェア
コストパフォーマンスが最優先される当節。
キビシイキビシイといいながら、利益を確保していても、支出金額のチェックを怠らないのが生き残る中小企業だろう。将来の利益のために投入した費用とその効果を予測することは難しいが、でき得る限りの予測、かつ比較分析を試みるのである。
しかし、そこに立ち塞がるものがいる。
ソフトウェアである。2000年問題も無事に通過できて、旧システムから新システムへと変更をしようとしたとき、サーバ&クライアントとなるパソコン本体の価格の安さに対して、ソフトウェアの価格の高さに、いささか驚く。特に、既製品のパッケージソフトを自社仕様に修正してもらうカスタマイズ費用は、元のパッケージソフトの金額をはるかに上回ることが多い。
支出金額がハンパではなくなってきた、ということもあるのだろうが、税務でもソフトウェアの取得価額等、そしてその周辺の費用について基本通達で明らかにされた。
自己製作ソフトウェアの取得価額については、適正な原価計算に基づいて算定し、既製品のソフトウェアの取得価額については、購入価格と稼動させるための周辺費用を加えることとしたのである。
これまで曖昧だった部分がきちんと基本通達で明らかにされ、明らかにされた分だけ、本音でいえばそれ以上に、きちんと会計処理をするという意味ではキツイ規定と感じられるかもしれない。
「ウチなんかの場合は、そのソフトウェアの導入に当たって必要とされる設定作業、及び自社の仕様に合わせるために行う付随的な修正作業等の費用、っていうのに引っかかるわけですね」
昨年、新システムへの切り替えで導入した販売管理ソフトウェアが今期ようやく軌道に乗って、ほっとしている綾口優子総務部長がそういった。
「まだ、エンジニアが来てちょこちょこバグ取りなんかしているみたいですけど、導入当初はタイヘンでしたよね」
ちらっと綾口部長の顔色を窺いながら、苅口経理主任がそういった。
「でも、旧システムだともういっぱいいっぱいだったんだから、結果も出てるし、導入してよかったでしょ」
「もっちろん、僕もそう思ってますよ〜」
ハイトーンでそうこたえて、苅口経理主任はS税理士の方を向き
「で、先生、通達でこう決められちゃうと、購入周辺のコストってみんな取得価額になっちゃいますね」
「そうだね。期間費用で落としたかったものまで含まれてる感じだね」
「カスタマイズ費用は高額なんでしようがないとしても、インストール費用とか、初期設定費用、カスタマイズしたソフトを動かしてみたときの調整的な補修費用とか、そういう当面のサポート費用までぜぇんぶ入っちゃうんですかね」
「そんな勢いの通達内容だね」
「請求書をみると、内訳があって、いろんな書き方をしてあるんですけど、僕には中身がよくわかんないですよね」
「要するに、ソフトウェアを入れてきちんと動かせるようにした費用ってことだろうね」
「年間サポートは別ですよね」
「動き始めたあとのコストなら、別に考えていいだろうね。ただ、きちんと動かせるようにした費用を全部取得価額にするというのも酷だと思うね」
「調整的な補修費用なんて修繕費でいいんじゃないですか?」
提案するようにそういった綾口部長。
「通達では、現状の効用の維持等に該当するときは修繕費っていってますから、そうでしょうね」
「じゃ、僕がいったバグ取りなんかは、プログラムの機能上の障害除去になるんですね?」
「う〜ん、そうなると、従順に考えれば、請求書を書いてもらうときに先方と話し合いをして言葉遣いを通達にある言葉に合わせてもらって、請求金額も別々に書いてもらった方が、将来的に誤解を招かないことになるかもね」
「別口でそのまま落とせる年間サポート費用、これ、けっこう立派な金額なんですけど…」
「そのまま落とせるにしても、カネ食い虫ですよね、コンピュータって…」
「先生、たくさんカネを喰うようになったから、ソフトウェアを無形固定資産にしたって感じですかねぇ」
何故か得意げにそういった苅口経理主任。
「苅口君、スルドイ指摘だね。資産は財産ではなく、まだ費用化されていない支出なんだから、金額の大きな支出に対して課税当局が見直しをかけたということで、案外当たってるかもね。それに、ソフトウェアってソフトというのは名ばかりで、使い方も会計処理も決してソフト、つまりはヤワじゃないよね」
「自己製作のときなんて、ほ〜んと、困っちゃいますよねぇ」
「先生、実はウチでもちょっとオリジナルソフトを創ろうかって話がでてきまして…」
「へぇ、そりゃすごいね。苅口君が?」
「まさか、技術部のメンバーですよ。僕にできたら地球が氷河期になっちゃいますよ」
大袈裟に両手を振って、慌てて打ち消した苅口経理主任に、綾口部長もS税理士も大笑いした。
「で、困っちゃうのが原価計算になるんだね。通達本文にある…」
「そうなんですよ。ソフトウェアの製作のために要した原材料費、労務費、経費、事業の用に供するために直接要した費用の合計額…」
「これって原価計算なんてやったことのない会社には無理難題だって思うんですけど、いかがでしょう?」
「部長のおっしゃることもよくわかりますよ。それに多くのメーカー中小企業での個別原価計算上の最大の悩みは労務費や経費の配賦計算なんですね。実際、多くの場合、配賦基準を作業時間にせざるを得ないんですが、たとえば、一人の技術者が二以上の仕事を兼務しているケースがあったときに、現実的には作業時間を区分して記録しておくことができないんですね。他にも理論的にはわかっていても実践できない事例がありますよね」
「簡単な方法を取れないんですかねぇ」
「通達の後段に、原価の集計、配賦等につき、合理的であると認められる方法により継続して計算している場合には、これを認める、とありますから、ここで救われたいですよね」
「で、先生が検討してみましょうとおっしゃったのが基本通達2-2-9ですね」
「これは設計等の技術役務に関するものなんですけど、ソフトウェアが役務提供として内容的に酷似しているんでね。どうかな?」
これを準用して考えられるかどうか、検討の余地はあるのではないだろうか。
(続く)
[平成13年7月号]
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