おケショウした私って、キレイ?
 
 ヘイソク・ニッポンに必要なことは何か?
先が見えない世の中だといわれている。現状が八方ふさがりだから、現状ばかり見て、そういっている人たちが多数派を占める。それを打開するには、過去に学べばよい、起業家精神を大いに発揮しろ、とにかく技術革新だ、凍り付いたカネを解凍して動かせetc etc……、喧しくディスカッションされているが、決め手がないようである。
 リーダーと呼ぶにふさわしいリーダーを求める声もある。これもリーダー不在だからこそ、そういわれているのだろう。ないものねだり、といえば皮肉になるが、快刀乱麻のリーダーシップを発揮する人物が持てる力を発揮すれば、もしかすると………という期待もある。
 さて、当節は、中小企業にとって決算の数字が気になる季節である。現状、商品売上げの資金のみをまわして商売できずに、他人資本の資金を借りて商売している中小企業では、原則的には適正な会計基準に従った決算を組むのだが、様々な個別事情により、そうならないことが割とある。いや、この長引く不況のなかで、ぶっちゃけた話、そのような例外事例の方が多いのではないだろうか。原則より例外の方が世の中ハバを利かせているのである。
 法律に書いてあることは守らなければならないが、書いてないことはやっていいという世の中だ、という声もある。法律の成立は後手にまわることが多く、これを乱世の処世術と聞くか、不埒な輩の暴言と聞くか、どちらに分があるだろうか。
 バブル経済花盛りのときは、節税対策が決算対策のメインテーマだった。バブル経済崩壊後は、益出し対策がメインテーマとなった。特に、選別されつつある中小企業群のうち、二極化されて負け組に属することになった中小企業にとっては、益出し対策が存続を賭けた決算対策となるのである。
「でも、粉飾決算はやっちゃいけないことですよねぇ。これって経営者の最低限のモラルでしょう」
 綾口優子総務部長が自信たっぷりにそういった。
「もちろん、その通りですけどね。ただ、重要性の高い低いがありますが、決算調整をするしないで、利益調整まがいの行為をしていることもあるでしょうね」
 さらっとそういったS税理士。
「たとえば、未払金や未払費用を計上しないとか、売上げの前倒し計上。仕入れ割戻しやリベートの前倒し計上……」
「そんなの簡単にできることですよねぇ」
 苅口経理主任の返事に、思わず、綾口部長が顔をしかめて苅口経理主任の横顔を見た。
「次に多いのが棚卸資産の水増し計上かな。これ、段々罪が重くなる順序でいっているかもしれないね。その他、う〜ん、これ以上はオフレコにしないと…」
「僕、聞きたいですッ、先生。どうやって益出し処理してるんですか」
「でも、これらはバレてもともと、バレモトでやることだよね。本当はやっちゃいけないことばかりだよ」
「すぐバレそうですよね」
「そうね、税務調査ですぐバレちゃうね」
「バレちゃうとどうなるんですか?」
「監査上モンダイだという指摘はするんだけど、それが税務上のモンダイにならない会計処理だと口頭注意って感じかな」
「ふ〜ん、そぉなんですかぁ。じゃ、大丈夫なんだぁ」
「なに? 何か心当たりがありそうだねぇ」
「いえ、そんな、先生、ウチはありませんよぉ、あなた、不穏当な発言しないでよね」
 慌てて打ち消した綾口部長が、苅口経理主任を叱るようにそういった。
「ジョークですよ。百二十パーセント信頼してますからね。でも、税務調査でベテラン調査官が来たときに、利益調整だけじゃなくって社員の会社のカネの使い込みとか、けっこう見つけるんですよ」
「へぇ〜〜〜」
「僕、借入金を売上げにして利益を出したって例を聞いたことあります」
「ええっ!」
大げさに驚く綾口部長。
「そこまでいくと破れかぶれでやることだね。立派な背任行為だろうね」
「犯罪になるわけですね」
「破れかぶれでやるというのは確信犯だからね。まぁ、二、三歩手前の苦し紛れにやることならさっきいったことぐらいかな」
「架空計上するのが、ですか?」
「う〜ん、また別の罪になるだろうなぁ。それだと、何年か先に架空計上分を元に戻すときに仮装隠蔽になっちゃうかな」
「脱税になるんですか?」
「どうかなぁ、大モンダイにはなっちゃうね」
「今日はスゴイ話になっちゃいましたね」
「苦し紛れにやることの一線を越えてしまうと、明らかに違法行為になるような気がするなぁ」
 三人とも一様に頷きあった。
「でも、苦し紛れにやることも、破れかぶれでやることも普通はできないことですね、ただ…」
「ただ?」
「同族会社の場合、割と高い頻度である話ですね」
「はぁ……」
「やっぱり……」
「まぁ、役員イコール株主なので、つい、背に腹は代えられず…」
「でも先生、会社には他に大事な利害関係者がいますよね」
 綾口部長がきっぱりとそういった。
「さすが部長、仕入れ先借入れ先の債権者のことをいってますね」
「そぉっかぁ、そぉですね」
 間の抜けた返事をした苅口経理主任。
「リーダーシップが求められている世の中で、リーダーシップを発揮できるのはオーナー社長か会長なんですけどね。中小企業の場合…」
「不当に利益調整するのは反面教師的リーダーシップですよね」
「でも、そういうのが見つかった社長って、なんてこたえるんですか?」
「益出し調整のこと?」
 黙って頷く苅口経理主任。
「益出し調整をおケショウしたっていいわけをした人はいたけどね」
「決算も美しさが必要ってことなんですか?」
 ………クリーンなものとダーティなものが世の中混在している。きれいは穢ない、穢ないはきれい。美醜の問題で捉えるのは問題のすり替えである。肝心なことは、真実とは何かということである。真実の姿を開示することが、唯一、対外的な信用の裏付けとなるということは、今や常識なのである。

(続く)

[平成13年4月号]

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