マイカンパニーで朝食を
ワーカホリックになって法人業績絶好調!
ある大手自動車メーカーでの出来事。その経営トップは遠い国から来た中興の祖となるべく人物であるが、早朝7時には既に出社しているそうである。同社のある役員が早朝7時に出社したら、もう仕事をしている経営トップを見つけて、いったい何時に出社しているのか、と不思議に思ったそうである。
ここ何年も好景気が続くアメリカ経済。その牽引車となっているシリコンバレーにある多数の急成長会社の経営トップたち。彼らは多忙中の多忙であるが、朝7時半でも平気で商談(ミーティング)をするそうである。そのときには、彼らの朝食は既に終わっているので、その商談(ミーティング)は朝食ミーティングではない。
アメリカの辣腕経営者やエリートビジネスマンは、とにかく、よく働く。ボロボロになるまで働くのである。
そのためだろうか、アメリカの企業では毎朝、オフィスの一角にパンやジュースやコーヒーが山のように用意してあり、6時ごろから出勤してくる役員や一般社員はみんなそれを自分の席に持っていって食べているそうである。自宅で食べるより、食後すぐに仕事にとりかかれることや朝食ミーティングなどにも時間を使えて、有意義かつ合理的でロスのない朝の過ごし方になるのだろう。
好況が続く理由は、ここに、ちゃんとある。
9時に出社して5時に帰宅するのは、一般勤労者である。しかしながら、業績が伸びている会社は自ずとそのような社員が少なくなっていくはずである。
「ウチの社長は朝8時に自分の席に座ってますけど、それじゃまだまだなんですねぇ〜」
感心するようにそういったのは綾口優子総務部長である。
「僕は一般社員だから、出勤は9時10分前頃なんですよ。朝は弱くって、いやぁ極極フツ〜のサラリーマンですよね〜〜〜」
頭を掻きながら、堂々とそういった苅口経理主任。それを見て綾口優子総務部長が
「認識不足なのよね。総務部にいることの意味がわかってないのよ、あなたは」
たしなめるようにそういった。
「だって僕は総務部でも経理課所属で……」
ブツブツそういった、いいわけ口調の苅口経理主任の発言を遮って
「部長は、じゃ、早い出勤なんですか?」
S税理士がそう訊ねた。
「い〜え、私は8時20分くらいですね。子どもを学校に送りだしてからですから」
「部長は通勤20分の職住接近だもんなぁ」
「社長は通勤45分で8時に来てるのよ。会長は通勤30分だけど、月に何日かの早いときは7時半に来て会社のカギ開けていらっしゃるんだから…」
「オーナーなんですから当然じゃないっすか」
「わかってないのね。あなたは誰からお給料もらっていると思ってるの」
「まぁまぁそれはともかく」
S税理士が二人の諍いに割ってはいり、
「いずれにしても、私を含めて現状じゃみんなアメリカには敵わないってことですね」
そういって、その場を取り繕った。
「ところで、朝食って残業食事代とおんなじ取り扱いになるんですか? 先生」
困った顔から笑顔に豹変した苅口経理主任が、あらたまった口調でそう訊ねてきた。
「そうだねぇ〜、何か実例があるのかな?」
「実は、ウチの会社でも三ヶ月前から早朝ミーティングをやってまして、そのとき出席者に朝食を出してるんですよ」
「初耳ですね、それは」
「当初は月イチだったんですが、タイムロスがないからって社長が気に入っちゃって、最近はテーマ別に出席者が変わって週イチのペースでやってるんですよ。部長も出てるんですけどね」
「ふ〜ん、いいことじゃないですか」
「まぁ、私は最近のことなんですが……、でも、先生、朝食代って福利厚生費でいいですよね? 事後承諾みたいですけど…」
「う〜ん、そうですねぇ……、勤務時間外なんですよね、早出も…」
腕組みしながらS税理士が唸った。
「そうなんですよね。それで…」
「先生、実は国税庁のホームページでタックスアンサーと通達を調べてみたんですよ。これがプリントアウトしたもので…」
そういった苅口経理主任が目の前に出してきた三枚の文書を手にとって、S税理士はさぁ〜と目を通した。
「朝食については書いてないみたいですよね」
「直接的表現では、ないですね。残業や宿直や日直を行うときに支給する食事は、無料で支給しても給与として課税しなくてもよい…」
「早出もいっしょですよね?」
「まぁ、本来食事代は自分のサイフから支払うべきものですからね。それを会社からタダで食事を支給されたときは、その食事代相当の金銭を受けたのと同じ結果となって、その経済的利益に対して課税問題が生じるわけです。じゃ、残業食事代はというと、勤務時間外の勤務になるので、それは実費弁償的な面があると考えられるから課税しない、ということになっているんですね。これは………昭和50年に規定されたものですね」
「役員や社員が半額以上負担していることとか、会社負担額が月3500円以下であることとか、このふたつの要件を満たしていないんですけど、いいんですか?」
「それは、昼飯を想定して規定されたものだろうね。会社負担額のある社員食堂の食事とか」
「そうなんですかぁ〜」
「あと、深夜勤務者の夜食について一食300円以下とかって規定がありますけど、今の物価じゃとても足りないですよね」
「20年以上前の規定じゃアナクロですよね」
そういって呆れるように綾口部長が笑った。
「そういうものを堂々とホームページに出しているんですから、スゴイというか、無神経というか、なんともはや…」
「じゃ、どうして早出の朝食のことを決めてなかったんですか?」
「当時はそういう実例がマレだったのかな。でも、朝食はどういう状況で提供されるのか、ということで判断すればいいと思うけどね」
「先生、ぜ〜んぜんわかんないですよ〜」
「じゃ、会社で用意した朝食を、勤務時間前に出勤したヤル気満々の役員や社員が食べると、それが毎日毎日なら税務署は給与課税しろっていうと思う?」
ひぇ〜ッといって苅口経理主任が頭を抱えた。
―――さて、アサメシ前の問題でしょうが、読者の皆様は会社提供の毎日の朝食について課税の有無をどう判断するでしょうか。
(続く)
[平成12年11月号]
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