母系社会を引き継ぐモソ(摩梭)人の通い婚。
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モソ人の民族衣装。 |
かっては雲南省そのものが中国の秘境であった。大理、麗江などは交通の便が良くなり、
すでに有名な観光地となっている。濾沽湖は雲南に残された最後の秘境の一つとして
にわかに注目されつつある。濾沽湖に暮らすモソ人も人々の好奇心を集めている。
母系社会が今も受け継がれ「通い婚」の習慣が残っているためである。この風習は中国語
で「走婚(ツォウホン)」モソ社会では「アチュー婚」と呼ばれる。
モソ(摩梭)人は少数民族の一つとして、まだ中国政府から認定されていない。民族的には、
麗江周辺に住むナシ(納西)族に含まれる。中国の古い歴史書では、ナシ族はモソ(「摩梭」、
「摩沙」などと表記)とも記されていた。ナシ族という名称に統一されたのはそれほど昔のこと
ではない。現在、雲南省北部の麗江周辺にナシ族が住み、その東にモソ人が住んでいる。言
葉、宗教もまったく異なる。モソ人の間に「ナシ族とは違う」という意識が出てきているのも、
ごく自然なことである。
母系社会の文化は、もともとほかの少数民族にも見られた。だが、それが今も続いている
のは極めて珍しい。モソ人が独自の文化を育んだのは、濾沽湖が長い間、外界から閉ざさ
れた環境にあったことが、大きな要因となっている。
モソ社会では13歳になると成人式が行われる。その後、男女の交流が認められ、気に入
った者同士は、やがて結婚する。でも、結婚した男女が一緒にくらすことはない。交際を始め
てからも、結婚してからも、男性は自分が生まれた家で生活を続け、夜になると相手の部屋
を訪ねる。「通い婚」と呼ばれるのはそのため。男性は朝になると実家に戻る。男女ともに生
家を離れることはない。子供が産まれると、母方の家で育てられる。父親は必要な時に子供
を訪ねたり、援助を行う。
モソ人の夫婦では婚姻の関係(婚姻届とか戸籍上の手続は無)があるのみで、財産を共有
することはない。別れることになった場合でも、離婚、再婚の揉め事はほとんどないという。生
涯をともにする男女もいる一方で、何度か相手を変える場合も珍しいことではない。こういう
ことから、外部の人、特に男性はモソ社会を性的に自由だと勘違いしていることが少なくない。
「通い婚」を「夜這い」と勘違いしているらしい。「通い婚」は相思相愛の男女の間で行われる
ことで、男性が夜だけ女性の部屋を訪ねるのは、家族に姿を見られることが良くないと考えら
れているためである。