記念品
少し前の話。
職場で、ルカにも少し関わりがあって、何かと声をかけてくれていた部長さんが、この度めでたく本社へ栄転されるとのこと。
そこで、送別会を開く予定だから、出欠の返事をしなければいけないとルカは悩んでいました。
気持ちとしては、お世話になった方の送別会なので出席しようか・・・でも送別会ってどんなことやるんだろ?と不安のようです。
私も少し考えて、結局ルカはお酒を飲めるわけではないし、皆さんと共通の話題があるわけでもないし、会費も高めで、部長さんクラスだと、多分お偉方が中心の送別会だと思われるので、「欠席の方がいいね」と助言したのでした。
ルカは「そうかー、世話になったから挨拶しなくちゃと思ったけど」と言いつつ、欠席に決めて肩の荷が下りたような感じでした。
しばらくたって、その送別会の際、記念品が出るので欠席の人でも、希望者から1.000円集めるとの話がでているとのこと。
「今日どうするか聞かれたんだけど、記念品なんていらないから、"いらないです"って答えておいた」とルカ。
「あっ、そうなの?」と答えて、 送別会なのに欠席者に記念品がでるっておかしな話だなーと、ふと考えた私。
「ルカ、それってあなたがもらう記念品じゃなくて、部長さんに贈る記念品を買うお金をみんなで出し合おうってことなんじゃない? 普通、送別会の記念品っていうのはそういうものなんだけど」と、聞いて見ました。
「えっ? だって職場の張り紙に"欠席する方で記念品を希望される方は1.000円集めます"って書いたあったよ。」とルカ。
うーむ。微妙な言い回しです。
その文書に括弧書きをいれて補足すると
"(部長に贈る記念品のお金を出してもいいと)希望される方は・・・・"とも受け取れるわけです。
少々おかしな文章ではありますが、職場ではいつもそうしていて「記念品と言えばそういうもの」という「暗黙の了解」が職場においてなされていれば、みんなそういうことだとわかっていて、大部分の人は1.000円払うに違いないのです。
でも、ルカはそれがわからないので、字面だけで「俺は記念品なんかいらないから1.000円払いません」ということになってしまったのかも・・・そう考えた私は
「明日、もう一度"記念品って部長さんに贈るものですか"って聞いてみたら?」と助言しました。
ルカはあわてて
「えー、もし部長さんにやるやっだったら、すんごい勘違いだよね。恥ずかしい」と動揺してました。
お世話になった部長さんへ贈るものだとしたら、送別会に欠席した代わりに、ぜひ1.000円は払いたいとのこと。
かくして、翌日もう一度確かめてみると、やはりそれは部長さんに渡す記念品だったそうで、
「それなら払います」と言って、その場でお金を払って一件落着となったのでした。
集金していた人も「わざわざありがとう」と快く受け取ってくれたそうです。
その話を聞いて「よかった〜」と私も胸をなで下ろしました。
集金をしていた方はルカのことをよく知っている方ですが、そういう勘違いをしていることまでは気づかなかったようです。
ルカの意図しないところで、「ルカ君って世話になった人への記念品でもお金を出さないんだなー、お金にシビアなのね」と誤解されたかもしれません。
ルカは何らかの形で部長さんへの感謝の気持ちを表したかったのに、その気持ちが周囲には全然通じないことになってしまうのです。
職場の「暗黙の了解」がわからないがために。
そしてその「暗黙の了解」がわからないのが原因で、周囲の人に理解されず、誤解されることになってしまうこと、
自閉症の方にはそういうことがとっても多いのだということを、改めて感じさせられたエピソードでした。
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