ラジオ体操
ルカの勤務先では、毎朝ラジオ体操をしてから仕事を始めるようです。
ルカの所属している課だけではなく、全員がそろってやっているようなので、そこでしか顔を会わさない人もいます。
「今度新しく入ってきて別の課の人なんだけど・・・」と、ある日ルカは何かを決心したように私に話しかけてきました。
その前に「俺って同じ話ばかり繰り返してる?」と念を押してました。
私が「この頃はそうでもないかな?」と言うと、安心したように話し始めたのでした。
ルカの気持ちからすれば、自分がそうだったら、他の人のことを言う資格はないと思っていたのでしょうか。
ルカの話によると、今度新しく入ってきた○×課の人は、若い男の人のせいか、ルカにも声をかけてくれるとのこと。
でも、このごろちょっとしつこくて、その話の内容というのが、「ルカのラジオ体操のやり方がなんかおかしい」ということ。
「なんおかしいよな〜」と独り言なのか、周囲に話しているのか、ルカに話しているかわからない話し方をするのだそうです。でも、狭いロッカーで着替えながら話すので、ルカにも聞こえてしまうようなのです。
なんかおかしいと言われても、ルカには治しようがないので、はじめは「そうですか・・・」とか返事をしていたが、毎日のことで、ルカも腹が立ってきたので、今日は言われても無視していたとのこと。
「明日、思い切って"もうその話はやめて下さい"と、言おうかと思う」とルカ。
うーむ。それはどうかな〜。
多分、その方は別の課の新人ということで、ルカが障害者枠で入っていることをしらない方です。
ルカはちゃんと体操をやっているとは思うのですが、アスペルガー特有のぎこちなさが体操に出ているのかもしれません。
それが「なんかおかしい」ということになる。でも、他のみんなはもし「おかしい」と感じても、ルカのことをある程度知っているので口には出さないと思うのです。
いや、ほんとはだれであろうと、人の体操がおかしいだなんて失礼なこと、言っちゃいけないと思うのですが、その方はつい軽い気持ちで言ってしまうのでしょうね・・・障害がなくてもいろんな人がいますから。
ルカも軽く「そんな、何回も言わないで下さいよ〜」と言えればいいのですが、多分、ルカが言うとしたら深刻な顔で「やめて下さい!」と言うことになります。
それだと、あとあと、その人とこじれてしまうかもしれないなーと思いました。
それでルカには
「それだと、相手も気分を悪くするといけないから、今日みたいに言われても無視していればいいんじゃないかなー。きっとその人もルカに直接言ってるんじゃなくて、独り言みたいについ言ってしまうだけだと思うから。"聞き流す"っていう方法もあると思うよ。きっと、あと一週間もすればその話題に飽きて言わなくなると思うよ」と答えました。
するとルカは、思いのほか納得してくれて
「ああ、やっぱりお母さんに相談してよかった。相談してなかったら明日絶対直接言うところだったよ〜。お母さん、ありがとう、ありがとう!」と何回も言われてしまいました。
ここまで言われてしまうとかえって心配になります。私の言ったとおりにならなくて、今後ずーっと言ってたらどうしよう〜と。なにしろ、直接見たわけでもなく、学校のように先生に問い合わせることもできないので、そういう時、本当に心配になります。
結局、翌日からその方は体操の話題をしなくなったそうで、一件落着でした。
前日にルカが相づちをうたなくなったからか? 他の同僚からルカのことを聞いたのか? その話題に飽きてしまったのか?わかりませんが。
ルカは「やっぱり、直接言わなくてよかったよ〜」ホッとしておりました。
嫌なことは嫌だと相手にはっきりいうことも時としては大切なのですが、長く働く職場ともなると、その一言が仇になることも十分に考えられるわけです。まことに、人間関係というものは難しいものですね。
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