余分なお金
ルカは外出時や学校に行くとき、必要最小限のお金しか持ち歩きません。
外出先では予想外の事もあり得るので、余分に持っていくように言うのですが、なかなか納得のいかない様子でした。
ある日の夜、定期券の期限がその日で切れることを思い出した私。
そのことをルカに伝えると、ルカも忘れていたようでした。
「今、思い出したから良かったようなものの、もし忘れていたら明日電車に乗れなかった」とルカ。
それで、私は以前から気になっていたことを聞きました。
ルカの学校へは電車で、片道450円かかるので、もし定期券が使えない場合往復の900円は持たせたいところです。でもルカはどうもそんなにはお金を持って行ってないようなので、そのことを聞くと
「うん。持って行ってないよ。だって必要ないし・・・」とルカ。
ここで、その私たちの会話を珍しく聞いていたルカパパ登場。
「ルカ、何かあったらいけないから、お金は多めに持ちなさいって言ってるだろう? もし定期券が何かの都合で使えなくなったら、どうやって電車に乗るんだ?」と聞きました。
「あーっ、だってさー、余分に持ってると使ってしまうんだもん。お昼に飲むジュース代とか」とルカ。
ルカの学校では昼休み麦茶が出るのですが、自動販売機がありジュースも買っていいことになっています。初めはジュースを買っていたルカですが、毎日買うとお小遣いがすぐ減ることに気づいたルカは、できれば使いたくないのでしょう。
「はぁ〜・・・。お金を持っていたらもっているだけ使うなんて・・・。そんなことじゃー大人としてやっていけないよ。お金は自分で管理できるようにならなくちゃ。そういうことが、がまんできないようでは一人で生活なんてできないよ」とルカパパ。
今日のルカパパは真剣・・・でも、これはルカの勘にさわるよな〜と思っていたら案の定、ルカはかなり動揺し、その後少しルカパパと言い合いになった後
「うっせんだよ〜!!」と大きな声でどなり、ドアをバタン!!と思いっきり締めて、自分の部屋に行ってしまったのでした。
ここで深刻になるとルカパパの怒りが沸点に達してしまうと思った私は
「いやだー、ルカもあんなこと言うようになったのねー」と笑ってごまかしたのでありました。
それから翌朝は何事もなくルカは定期を購入するお金を持って学校へ、ルカパパは会社へと行ったのでありました。
そうだったかー、なんであんなに余分なお金を持ちたがらなかったのか、それはたかがジュースの問題ではなく、ルカの衝動性に関連していて、少し深刻な問題なのかもしれません。
ルカはあの場ではジュース代だと言ったけれど、実を言うと少し前に友達と金銭の貸し借りで先生から指導を受けたことがあったのです。
あのケチなルカが・・・と私も意外だったのですが、その場の雰囲気で自分の衝動を抑えきれなかったりすることは、金銭の問題でなくてもこれまで何度かありました。その度にもうやらない!と誓っても「わかっちゃいるけどやめられない」状況に陥ってしまうことをルカ自身がよく知っているのでしょう。
どうしたものかなーと思案の結果、ルカは日頃冷蔵庫の中のミミのジュースを飲みそうになってしまうことがしばしば・・・その時ジュースに「飲むな!」と書いておくとガマンできることを思い出しました。
お金にしても全部財布に一緒に入れておくから使いたくなるのです。
これはルカパパがやっている方法ですが、ルカパパは普段使うお金とは別に何かの時に・・・と車の免許証入れの中に、一万円札を忍ばせています。
その方法で、ルカもお守りとか何か持たせて、その中に余分なお金を忍ばせておけばいいんだ、「困った時以外は使わないこと!」なんていうメモと一緒に。
それと・・・ルカパパに対しての態度も、注意した方がいいなー、父親に向かってあの言葉使いはまずいよなー、謝るようルカに言った方がいいなー
と、あれやこれや考えて、ルカの帰宅後そのことを話しました。
ルカは余分なお金を持つ方法については、快諾。
しかし、ルカパパに謝るのは納得できないようす。「昨日のことってそんなに悪いことなの? だってお母さん笑ってたじゃないか」(だからそれは、これ以上事が大きくならないようにという私なりの配慮なわけで・・・)とか「殴られたら殴り返してやる!」などといって、全然だめです。
それで苦し紛れに「ルカ、お父さんはね、ルカのこと心配して言ったんだよ。将来ルカは一人暮らししたいんでしょ。お金の管理っていうのは、生活していく上でとても大事なことだからね」と言うと、
ルカは、とてもびっくりして
「えっ? 心配していったの? 俺は、俺のことバカにして言ってるんだと思った・・・悪いことしちゃったなー」と言いながら、ぽろぽろ涙をこぼしたのでありました。
「今すぐ、お父さんに謝りたいんだけどどうしたらいいかな?」とルカ。ルカパパはまだ会社から帰って来そうもないし・・・・そうだ、メールです。
「ルカ、お父さんのケータイにメールしたらいいよ。」
「あっ、いい考えだね」ということで、それから長い時間をかけて謝罪のメールをしたのでありました。
やれやれ、これで一件落着です。
しかし、父親に対してはいつも反抗的な態度をとりがちなルカ。
反抗期?・・・それもありますが、他人の気持ちを誤解してしまっているルカの姿も明らかになりました。誤解が解けるとあんなにも素直になれるなんて・・・アスペの子はきっと根は素直なんです。
それなのに、言葉のはしばしのちょっとしたことに混乱してしまって、乱暴な言葉使いをして誤解されていること、多いんだろうなー、そんなことを考えました。
前に戻る