・近況報告191

話し合い

ルカの学校では作業の時間というのがあります。
2年までは作業1と作業2とがありましたが、 3年では、現場実習が年3回入るので、その分校内での作業は、一つだけの選択となります。
ルカは2年に経験している窯業と紙工から一つを選択ということで、「どっちでもいいけど、窯業は土が、手や作業着について大変!」という理由で、紙工を選択しました。

ここ最近、その紙工についての話題が多いのです。
なぜかというと、ルカにとっては少々ハードルの高いことをやっているようです。
それは、班単位で話し合いながら作業を進めていくということ。
今までは、指示通りすれば良かったのですが、新たに課題をもうけたようです。
話し合い、といってもそんなに難しいことはしていないようなのですが、それでもルカには難しいのだということが、ここ数日でわかってきました。

班といっても3人だけなのだそうですが、まず「今日は○○の作業をします」という初めの全体的な説明をもとに、班で必要な道具(ハサミとかテープを棚からもってくる)をそろえる、ということから始まります。
その時に、誰が何をもってくるか、3人で話し合って持ってくるというのが、課題のようです。 それがルカの班はずーっとできなかったそうなのです。


「やっと謎がとけたよ!」
ある日、作業の話を聞くと、ルカがすっきりした表情で答えました。
どうやら、今まで作業に使う道具の準備がスムーズにできない原因がわかったようです。
「あのね、1人の子が自分が何をもってくればいいか、わからなかったんだって、知らなかったなー」とルカ。
私 「どうやって、道具をもってくるのを決めてたの?」
ルカ 「俺は○○もってくるっていうと、もう一人の子がじゃー俺○○を・・・って決まるんだけど、一人の子がさー、いっつもぼーっと立ったままで、何にも持って来ないんだよね。なんでいつも何にも持って来ないのかなーって疑問に思っていたんだけど、先生が"打ち合わせができてない"って 、うちの班をみにきて、いろいろ言われて・・・それでその子が何を持ってくるのかわからないから動けなかった、っていうことがわかったわけ。」
私 「その子がぼーっと立っていた時、"君は何をもってくる?"って今まで話しかけたりしなかったの?」
ルカ 「そんなことはしないなー、だって、俺は○○もってくるって言ったんだから、他の人は残りのものを持ってくればいいでしょ。その子が何を持ってくるかわからなかったなんて知らなかったよー、全く初めの説明聞いてないのかな?」
私 「"俺は○○もってくる"っていうだけじゃ、ただたんに宣言しただけでしょ。話し合いっていうのは、ただ自分のことをいうだけじゃなくて、相手はどうなのか、質問したりして、話のやりとりをすることなんだよ」と、紙に書いて説明。
ルカ 「あーっ、もうそれって俺に対する批判? もう学校の先生も、その子がわからなかったのが原因なのに、話し合いができてない俺も悪いようなことをいうんだよねー、全く〜」
私 「わかんない子がいたら教えてあげなくちゃ」
ルカ 「教える〜? 俺みたいなものが他人に教えるようなことできないよ」
"教える"という言葉が気に入らないのねと思った私 「じゃー、伝えるということでどうかな?」
ルカ 「まっ、それだったらできるかな」
ということで、話は一応、一件落着?でした。

この私との会話の中に、ルカの苦手な部分が見事に凝縮している気がして、興味深かったです。

・誰かに指示されたことには、スムーズに動けるが、自分がリーダーシップをとることが非常に苦手。
・自分がわかっているものは、相手もわかっているものだという思いこみ・・・相手の気持ちを推測できない。
・話し合うということは、会話によって成り立っているということを理解してない。
・人と話をするとき、自分が否定されているか否かが、とても気になり、話の本質を理解する事への妨げとなっている。
・自分が苦手とするキーワード(この場合は"教える")に敏感に反応、拒絶する。

多分、一緒の班の子もルカと似たような子どもたちなのでしょう(誰なのか名前を教えてくれません) 
普段仲良くしている友達や、大人だったら、ルカが考える前に先回りしてやってくれているので、ルカはこんなに困ることはないのですが・・・。それは、逆にルカの弱点を見えにくくしているようです。

ただ単に、作業で使うものを用意するだけなのに、そのなかにルカ達の苦手なコミュニケーション能力を高めようとか、そういう課題を加えるだけで、こんなにも手こずるものなんですね〜、先生たちも大変です。

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