暗黙の了解
自閉症の人は暗黙の了解がわからない。これは自閉症の子を育てている親が知っておかなければならない基本中の基本です。
しかし、時に私はこのことをつい忘れてしまって、墓穴をほることになるのです。
それは主人の実家に行ったときのこと。
ルカの祖父母も年をとって、買い物もままならない状況なので、たまーに私たちが行って買い物のお手伝いをするのです。
ついでに、お昼ご飯も自分たちの好きな総菜を選んで、祖父母宅でみんなで食べるのがこの頃のお決まりです。
ルカはその日の気分によって、一緒に買い物に行くこともあるし、留守番をすることもあります。
その日はルカも一緒に買いに行きました。
お総菜のコーナーの前を通ると、ルカやミミは「これ食べよー」などといって適当にパック詰めの海苔巻きなどを買い物かごに入れてました。
二人とも自分が食べきれる量なのかどうかもあまり考えずに買っているようだったのですが、「まあいいか、どうせみんなで食べることだし」と、私もあえて注意もせずにいました。でも、食べ物が余るのがいやなので自分の分は買わないで帰りました。
祖父母宅に戻り、買ってきたものを適当にお皿により分けていると、ルカが
「それは俺のだ」と言い出しました。
「でも、これ全部は食べられないよ。適当にみんなで分けて食べようよ。そうしないとお母さん達の分がないし・・・」と私。
「そうだよ、みんなで分けて食べればいいじゃない」とルカパパもミミも当然のように言っています。
「えっ、えっ? そんなこと聞いてない。俺は自分の分だと思って買ったんだよ」
もうすでにルカの頭の中はパニックの様子。
「あーっ、おなかが空いてるのに、食べる気がしなくなった。なんでみんなへんな事言うの?」と騒ぎ出しました。
あーあ、やってしまった。そういえばみんなで分けて食べるんだよと、ルカに説明してなかった! いつもそうしているから、言わなくてもわかるだろうと思ったのに・・・後悔先にたたずの私です。
せっかくみんなで楽しく食べようとしていたのに、その場は気まずい雰囲気になりました。これ以上ルカが騒ぐと、ルカパパがキレるかも・・・と心配した私は、ルカとひとまず別室へ。
「お昼ご飯をみんなで分けて食べるなんて俺は知らなかった」とルカ。
「ごめんね。ルカに説明しなかったお母さんが悪かった」と謝りました。
「そうだよ」と自分のとった行動が当然のようにルカが答えるので、
「でも・・・ みんなはね・・・いちいち説明しなくてもわかってたんだよ」と付け加えました。
「えっ、なんで? じゃあやっぱり俺が変なの。みんなは俺が変だと思っていたんだ!」とルカはかなり動揺してしまいました。
私は、みんなにはいちいち説明しなくてもわかることが、ルカにはわかりにくいこと、それはルカの障害からきていること、ルカは正しいと思ってとった行動でも、周りのみんなは気分を悪くしてしまうことなど話しました。
「やっぱり俺が変なんだ・・・」と言いながらも徐々に気分は落ち着いているようなので、
ルカのすきな電車の話に話題を変え、なんとかお昼ご飯を食べる気になっていきました。
考えてみれば当然のことなのですが、ルカは食事前に自分が騒ぎ出したことで、周囲がかなり不快な思いをしていることなど、全く気づいていませんでした。むしろ、自分は正しいことを言ってるのに、それをみんなに否定されて、自分が一番の被害者だと思っていました。
自分がみんなより融通の利かない人間だなんて、これっぽっちも思ってないのです。
それでも、説明してなんとか立ち直ってはくれましたが、もし周囲がルカの障害の特性を知らなかったらどうでしょうか?
きっとルカに限らず、その人の障害が理解されていないために、お互いが理不尽な思いをしていることって多いような気がします。
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