・近況報告 その52


作業実習

昨年、作業能力検査を受けてさんざんだったことを近況報告にも書きましたが、実はあの検査には続きがあるのです。
検査を受けて、実際に実習できそうな子は、一週間、養護教育総合センターに通い、作業の実際を経験できるようになっているのです。
ルカは、検査を受けに行くのも乗り気でなかったので、「実習は断る」と、昨年の段階では拒否していました。
しかし、3年になったら進路のこともあるし、高等養護学校に行っても同じようなことをするわけだし、行った方がいいよなあということになって、ルカとは3年になったら行く、という約束をしていたのです。
そして、先週とうとうその日がやってきたわけです。
ルカも約束していたことなので、素直に参加を承諾してくれました。
実習の内容は、ルカと同じような?障害の程度の子5人で(全員中3、学校はばらばら)グループを作り、6日間、実際の勤務を想定して、作業の仕事を行うというものです。
作業の内容としては、ボールペンの分解・組立、色鉛筆の箱詰め、段ボール箱の組立、端子の組立、パソコン等です。
実習時間は朝9時〜夕方4時まで。原則として自立通勤(学?)でタイムカードもちゃんとあるのです。
うちからセンターまで、1時間15分かかるので、ルカは毎日7時半には家を出なくてはなりませんでした。
中学生にしては結構ハードだと思いませんか?
脱落者が出ることもあるそうです。

ルカは作業は大の苦手。初日のポールペンの分解ではノルマ1200本!。
ルカにできるのかとても心配でした。案の定、午前中はペースが上がらず、周囲も冷や冷やしたようですが、午後になってコツをつかむと、人が変わったようにスピーディになり、見事ノルマを達成したようです。
やっぱりそうか・・・
ルカの場合、確かに手先も不器用で要領が悪いので、時間に追われる仕事は苦手です。
でも、一度コツを覚えると早くできるようになるようです。
きっとアスペルガーの方の中には、普段はスローペースなのに、得意分野においては、目にも止まらぬ早さで作業をこなすような人、いるのではないでしょうか?
ルカもそういうコツを覚えることで、なんとか何らかの仕事に就けないだろうか・・・と私は思っているわけです。
しかし、一つのことができても、違う作業になるとまた1からやり直し・・・というのもアスペルガーの人の特長かなと思っています。
一般的には同じような系統の仕事に見えて、前やった仕事の応用のようなものでも、アスペルガーの人にとっては、全く別物だと感じられてしまうことってあるのではないでしょうか。
例えば、前の検査の時に「普段からリンゴの皮むきなど、手先を使う仕事をやって下さい。なんでもお母さんにやってもらっちゃだめよ、ルカくん」と、実に耳障りなアドバイスをいただいたのですが、私から言わせると、彼にとってリンゴの皮むきとボールペンの組立は全く別物です。
それが周囲の人にはわかりづらくて「訓練不足だ」なんて不名誉なことをいわれてしまうんだろうなあと、他人から誤解されていることってたくさんあるんだろうなあと思うわけです。(ルカママは検査の時に"訓練不足"と言われたことを未だに根にもっているらしい・・・)

まあ、作業はこんな具合で、特に最後のパソコンの実習等は、楽しくできたようです。見積書の作成など、初心者向けにしては意外に内容が濃かったようです。

しかし、今回の実習は単なる作業能力の問題だけではなかった!
初日早々、ルカはいっしょのグループの生徒にからかわれてしまったのです。
その子も障害を持っているはずですが、きっとルカと違う障害だったのでしょう。
パイプいすを投げつけられた、自分の鍵を投げつけられた、部屋に閉じこめられた、とルカが私に訴えたので、次の日連絡帳でセンターに報告。
しかし、からかった子に聞くと「やってない、やってない」と大騒ぎしたそうな。結局誰がやったかはっきりしません・・・という回答でした。
ルカは相手が「やってない」と言っていても、この子だ!という確信はあったようですが、その場では反論できなかったらしい。
何か問題があったら、その場で報告するようにと、指導者に言われたようで、ルカもそれには納得しておりました。
そう、その通り。
実際職場で被害にあっても、その時は親が出るわけにはいかないし、結局自分で周りに訴えるしかないのです。
でも・・・今のルカにはそのような実力はありません。なんかからかった方より、からかわれたルカが悪いといわれた気がしてしまって・・・。
結局は人間関係の問題なんですよね。
その子は、その後も「ルカくんは、作業が遅い!」と言ったりしたそうで、ルカは傷ついておりました。
しかし反論のできない彼です。

やっぱり、ルカ一人だけの力で問題なんて処理できないよなあ、就労できたとしてもルカのことを弁護してくれる人が必要だなあ、定期的に職場を訪問してくれたりする専門家が必要だ・・・などと深刻に考えている横で、
「いやあ、実習はきつかったなあ、お母さんもっと楽な仕事ないの? 」
とルカが質問してきました。
やれやれ、世の中の厳しさがまだまだわかっていないルカでありました。

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