電車の旅
修学旅行から帰った次の日、ルカはかねてより予定していたあることを決行しました。
全国の鉄道を地図帳で調べるのがルカの日課なのですが、名前が同じ駅というのが結構あるらしいのです。
ルカはそれが気に入らないらしく、どっちかが偽物に違いないと思っています。
本物と偽物の区別は、実際二つの駅に行ってみて、駅の所在地周辺が栄えていたら本物、閑散としていたら偽物ということのようです。
今回ルカが確かめたいのは、千葉にある下総○山駅と、近所の○山駅。
違う名前じゃないかー、とつっこみたくなるわけですが、ルカ的には「○山」が同じなので、どっちかが偽物ということだそうです。
なんだかこんな風に書きながらも、「そんなことどうでもいいだろう!!」と、叫びたくなる私です。
しかし、ルカにとっては大問題。
「どうしても千葉の下総○山駅に行って確かめてみたい」というのです。
ちょっと心配だったので、ルカパパと一緒に行くようにすすめのですが、一人でいきたいという決意が固く、計画表をワープロで作成。
と言っても、わずか三行だけでしたが。
それには、目的と言うのが書かれていて、本物・偽物を確かめたいというのと、これは意外だったのですが"通勤練習のため"と書かれてありました。
計画表をつくってから、いろいろな行事のためなかなか行くことができなかったので、ルカももう持ちきれなくなり、修学旅行の次の日(日曜日)決行ということになったわけです。
何しろ路線や方向感覚はばっちりのルカなので、道に迷う心配はないものの、昼ご飯はどうするんだろうとか、変なことをして不審者にまちがわれやしやないかと、心配なことはつきなかったのですが、結局、昼ご飯を早めに家で済ませルカは元気に出ていきました。
家に残された3人は、「もう、そろそろ目的地についたかなあ」と、時計を気にしながらひたすらルカを待っていました。
しかし、ルカはなかなか帰ってこない・・・
夕方6時になっても帰ってこない。我が家の門限は一応6時ということになってるのですが・・・
「そういえば、何時に帰るか確認してなかったよね。失敗しちゃったなあ」
「でも、ルカも6時が門限だってわかっているはず」
「いやあ〜、ミミにはうるさく言ってあるけど、そういえばルカにはっきり言った覚えがないなあ」などと言っていると、
「ただいま〜」とルカの声。6時30分でした。
「いやあ、下総○山は都会だったよ。あっちが本物だ〜。なんかくやしいなあ」とルカ。
門限が6時だなんて、ルカには全然通じてなかったようで、今度からは6時まで帰ってくるように話しました。
「家族の人が心配しているから」というと、ルカは意外な顔で
「へえ、そうなんだ」と言っておりました。
よくよく聞いてみると、下総○山駅だけじゃなく、通り道の都内の駅にかなり立ち寄ったらしいのです。
写真もたくさん撮ってきたようで、後で駅の看板と、珍しい電車の写真をたくさん見せてもらいました。
ルカパパが一緒だとこうはいきません。目的地に最短の経路を考えて行ったと思います。
ルカはそれがわかっていたので、「一人で行く」ときっぱり言っていたのでした。
「おなかすかなかった?」と私が聞くと、駅の近くのコンビニでおにぎりを買って食べたとのこと。
「えっ、座って食べた?」と、ルカが不審者に見られなかったか心配でたまらない私。
ルカの話によると、コンビニの前の階段のようなところで、しゃがんで食べたとのこと。鳩が寄ってきたのでご飯粒をやると、喜んで食べた、との話でした。
そうか・・・そういえば今の若い子たちって、よくコンビニの前で"地べたりあん"やっているよなあ・・・と、考えてみればいい時代だよなあ、少々行儀悪くても、いろんなことが許されている時代だよなあと、納得してしまった私でした。
ルカが小さい頃、会話ができくなてもコミュニケーションカードを持って、全国を電車で旅するのが好きな自閉症の人の話を聞いたことがあります。
そんなことうちのルカは無理!!と思っていましたが、近い将来、そんな日がやってくるような、そんな予感のする出来事でした。
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