・近況報告 その44


悩み

ルカは年に3〜4回程度、リハセンターの心理の先生のカウンセリングを受けています。
もう中学生で、自分の障害のことも知っているので、原則として親はノータッチ、ルカ一人で通うことになっています。
現在のところ、緊急に相談しなければならないことはないのですが、将来に向けて、ルカ自身が何か困ったことがあるとき、親以外にも相談できる場所が必要であろうということで、悩み事相談の練習のようなものかもしれません。

カウンセリングの日が近づいているので、何を相談するのか考えておくようにルカにいってるのですが・・・
親が相談したいことと、ルカが相談したいことは必ずしも一致しないことがわかりました。

ルカの苦手なものとして、消防署のサイレンの音と、小さい子供の声があげられるのですが、私としてはぜひこの2つを克服して欲しい。 というのも、外出したときにさまざまな不都合が生じるからです。
たとえば、車で消防署の前を通っただけで、ルカは大騒ぎ。
「サイレンならないよね。なんでこんな所を通るの?」と、抗議の嵐。
小さい子供の問題はもっと深刻で、スーパーへ買い物にいっても近くに小さい子供がいると、それだけで彼の心は乱れに乱れ、
「なんで、この世の中にガキ(彼にとってのガキの定義は、5歳以下の幼児を指すそうです)が存在するんだ!!」と、怒り狂ってしまうのです。
もちろん、彼は子供に直接そんなことは言いませんし、手も出さないのですが、我慢の限界を超えてしまい、その場にいられなくなることがあります。
先生に相談したら?と何度か言ってみたのですが、彼は「そんなことは相談しない」と、言い張るのです。

ところが、このことに近頃、異変が起こりました。
消防署のサイレンの音のことは相談しようかなと、言うのです。
実は、サイレンの音に関しては、このごろ少しずつ抵抗感が薄まっているように感じていた所でした。
彼いわく、
「これは、努力すれば克服できそうな気がするから、相談してみる」ということでした。

つまり、彼にとって悩みを相談するというのは、それを克服しなければならないということを意味するようで、サイレンの音は努力して克服するつもりがあっても、子供のことでは克服する気はないと言うことなのです。
考えようによっては、悩みを相談しようと思った時点で、その問題は解決に近づいているのかもしれません。

では、なぜ小さい子供の事は、克服できないのか・・・
それはぎゃーぎゃー泣きわめく、子供自体に問題があるのであって、自分が克服しなければならない問題ではないと言うことです。
相手が悪いのに、何で僕が努力しなければいけないんだ!!というのが、ルカの言い分なのでしょう。
しかし、ルカだって幼児期には、それはそれはぎゃーぎゃー騒いだはずです。
「子供なんだから、それは許してあげようよ」、と何度も言ってみたのですが、「なぜお母さんは、子供の頃、僕が騒いだ時点で、僕を死刑にしなかったの?」等と言う始末。
彼にとっては、ガキの言動ほど、理不尽なことはないようで・・・。
店の中を大きな声を出して駆け回り、欲しいものがあると、買って買ってと大きな声でねだり、気に入らないと、ぎゃーぎゃー泣き出すガキ。そんなわがままなガキを、大人は「かわいい」なんていうものだから、ますます腹がたってしょうがないようです。

彼は気づいているはずです。そのガキの声を聞いて、どんどん調子が悪くなっていく自分を。近くを通るだけで、緊張が高まり、ガキの存在の他に何も考えられなくなってしまう自分を。それでも、そんなガキごときで、調子悪くなる自分を認めたくないのでしょうか・・・。
その一方で、そんな彼と一緒にいて、「このクソガキ・・・」と、ルカが口走っているのを、相手の親に聞こえてないだろうかとハラハラドキドキしている、家族の気持ちに彼は気づいているだろうか。

本人の悩みを解決するのは、もっともな話ですが、ルカにつきあわされている周囲の悩みも是非きいて欲しい・・・、本人は自覚してなくても、周囲が困っている事っていっぱいあるんだから・・・ついそう愚痴をこぼしたくなる私です。

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