・近況報告 その20


ルカの涙

今、ルカが通っている特殊学級では、手先の訓練や集中力を高めるために、紙工芸をやっています。
長方形の折り紙を三角の形に折って、それをいっぱい作って組み合わせて、置物のようなものを作るのだとか・・・
手芸好きの人の間でもはやっているらしく、私も何度か完成品を、よそ様のお宅で見たことがあります。
クラスの一人一人が1時間に、三角の折り紙を何枚作るか目標を決めて、目標通り出来たかどうか、グラフに書き込んだりしているようです。
ルカは、手先が不器用ですから、目標を低く設定すればよいものを、だいたい1時間に30枚位が適量だというのに、50枚と目標を立てたそうな・・・
目標とは裏腹に、初めは1時間に10枚程度しか出来ず、先生に手伝ってもらったそうです。
初めは、大丈夫!!と、自分の実力を全く省みなかったルカですが、先生に手伝ってもらわないとできないという、ルカにとってはこの上なく不名誉な立場に立たされてしまいました。

ある日の夕食時、ルカは深刻な顔で、私に言いました。
「僕・・・ やっと自分のことがわかってきた・・・」
一つのことをやるのに時間がかかりすぎると、以前から指摘をしていたのですが、本人は「そんなことはない」と、なかなか認めようとしませんでした。
しかし、紙工芸をやっていると、クラスの中でも出来る生徒は、1時間に90枚も折ってしまう子もいるそうで、数字の上からも歴然とした結果がでたようです。
しかも、一人でやると決めていたのに、先生に手伝ってもらわないと出来ないという現実に、ルカも自分が不器用であることを認めざるを負えなかったようです。
「なぜなんだろう。これも障害の一つなのか」という、ルカの質問に対し、
「そうだね。アスペルガーの人は、時間内に急いでやることが、苦手な人も多いようだよ。ルカが将来仕事に就いたら、そういうことも周囲の人にわかってもらわないといけないよね。」
と、話しました。
ルカは、黙って聞いてましたが、そのうち涙が、ポトリポトリ・・・・・しばらく泣いていました。
ルカの涙を見るのは、ほんとに久しぶりで、ちょっとびっくりでしたが、しばらくそっとしておきました・・・・・。

その後、紙工芸の方は、要領を覚えてきたようで、徐々に出来る枚数が増えて、ルカも目標に向かって(目標は全部で400枚だとか・・・)がんばっているようです。

ルカは、小さい頃から不器用ではありましたが、なにしろそのほかにもいろいろな問題を抱えていて、特にそのことを重要だと思ったことはあまりなかった気がします。
それどころか、落ち着きのないところが逆に、やることが遅いという印象を薄くしてしまっていたのか、ルカがのろま?だなんて、思ったこともありませんでした。
しかし、10代になって診断名が、高機能自閉症、アスペルガーとなったあたりから、どうも要領の悪い子だなあ・・・ルカより障害の重いお子さんでも、作業能力においては、とてもはやく出来ていたりして、私などは、なんで〜と、驚いてしまうことがあります。
不器用というよりは、要領が悪いという言葉の方がぴったりかも知れません。
それは、作業能力だけでなく、人間関係の上でも言えることだと思いますが・・・・・
将来的に考えるなら、いわゆる知的に重い軽いの問題ではなく、社会への適応能力がものをいうと、何度も言われ、高機能自閉症やアスペルガーの人が、なかなか将来職に就けないという現実を私は知っていたはずなのに、実際にルカもそうなんだと言う事を、今、改めて目の前に突きつけられている感じです。
それでも、紙工芸一つをとってみても、初めは苦労しますが、何度も繰り返す事によって、要領を覚えていくことができるのだという、一筋の希望もあることも確かです。
なんとか、良い方向に向かっていきたいものです・・・。

ところで、前回ルカが妹に自分がアスペルガーであると、告白したことを書きましたが、紙工芸の話の時は、妹も同席していたわけで、ルカは妹の前でも、自分の障害の事を、抵抗なく話題にしていました。
妹も、自然に私とルカの会話に加わっていました。
よかった。よかった。

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