<ルカママより>

こんなお便りをいただくと、とお〜い昔の出来事がよみがえってきます。

我が家はルカが1才と少しの時にそれまで住んでいたところより、ほんのちょっと広いマンションに引っ越ししました。私たちが選んだマンションは広い公園を囲むようにできていて、ルカがこの公園でお友達と遊ぶのを夢みて引っ越ししたのです。
同じように子どもを持っている近所の人達とも友達になって、楽しく暮らせたらいいなと思っていました。
でも残念ながらルカは、公園のお友達と楽しく遊ぶタイプの子どもではありませんでした。
その公園には毎朝、幼稚園バスが止まります。
朝、洗濯物を干しながらそのバスを眺めて、うちのルカもあと何年かしたら乗るんだなあと、楽しみにしてました。
でも、何年かしてルカは通園施設に通うようになり、公園に来る幼稚園バスには乗ることはありませんでした。

保健所の4ヶ月乳児健診に行ったとき、もうすでにはいはいもできそうな元気なルカを見て、小児科の先生に「将来はスポーツ選手になるんじゃないかしら」と言われ、誇らしく思いました。しかし、それから1年後の1才6ヶ月健診で、ちっともじっとしないルカを見てため息をつく保健婦さんを見ることとなりました。
それでもルカに障害があるなんて、気づきもしませんでした。だって、"障害"と言う言葉と私の人生は別物だと思っていたから。子どもはちゃんと育てれば、親の思い通りにいくものだと思っていたから。ルカは学校に入ったら成績抜群でクラスで人気ものになるはずの子どもだから。障害があるだなんて、あってはいけないことでした。

でも、彼には障害がありました。

それから私は障害のある人達の世界を知ることとなりました。そして今までの自分の傲慢さに気づいたのです。 世の中にはいろんな人が暮らしているのだということをルカを通して教えられました。

ルカが2才半の時、妹のミミが生まれました。まだ、ルカに障害があることは知らなかった私ですが、他の子とは違うことが直感としてわかっていたのでしょうか・・・
普通の母親をやってみたい。ミミが生まれた時、私はそう思いました。
普通の母親。公園でベンチに座って砂場でお友達と楽しそうに遊んでいる我が子を、ゆったりと眺めていられるような・・・そんな経験をしてみたかったのです。
近所のお母さん達とも、「うちの子はねー」とたわいのない話をしてみたいと思っていました。
公園前にくる幼稚園バスに我が子を乗せて、「いってらっしゃーい」と手を振ってみたいと思っていました。
ミミはその願いをかなえてくれました。
でも・・・砂場でおとなしく遊んでいるミミを見ていると、退屈で退屈で、私があこがれていたことってこんなことだったんだーとちょっとがっかり。
近所のお母さんとのオシャベリも、実は本音で語りえることなんてほとんどなくて、ルカの通園施設で知り合ったお母さん達とのオシャベリの方が数倍楽しいことを知りました。
"隣の芝生は青く見える"というのはこのことかな?
今は、障害のある子とそうでない子と、二通りの母親をやらせてもらって、なんてラッキーだろうと思っています。それぞれいろんなことがあって、子どもを育てるという経験が、私自身を豊かにしてくれるように思えます。

先日「レインマン」という映画をテレビでやってました。 特異な能力を持つ自閉症の人が主人公のこの映画、フィクションであるということを十分承知して見てもらいたい気はします・・・
この映画を初めて見たのはルカが2才の頃、自閉症と診断される前の微妙な時でした。
「頭をがんがんたたくところとかルカに似てるね」とルカパパが言ったのを覚えています。
私はといえば、こんなの嫌だ。こんな心が通じないような障害はいやだ!とその映画に対してちょっとした拒絶がありました。
そして今回、私の中で「レインマン」は愛すべき人に変わっていました。
ルカが自閉症と診断された時、ルカと一生気持が通じ合えないのではないかと、不安でした。
確かに、自閉症の人は、私とは違った感覚で世界を見ているようです。
それでも、人と通じ合うことを拒否しているのではないと、ただその方法が少し違うだけなのだと思えるようになりました。

現在、自閉症やその他の障害があると診断されて、不安に思っているお母さん、
確かにこれからいろいろあると思うけど、そんなに悪い毎日ではなかったよ・・・そういってあげたいです。

我が家ではルカが小さい頃撮ったホームビデオがたくさんあります。
ルカの障害をまだ知らない私が、ルカと一緒に笑って映っていたりします。
私は、ルカが自閉症と診断されてからそのビデオをしばらく見ることはできませんでした。
そこには、ルカのことを何も知らないで笑っているバカな私が映っているから・・・
でもこの頃は見ることができます。
ビデオの中の私は確かにお気楽に笑ってます。でも、いいのです。知らなかったことは恥ずかしいことでもなんでもありません。
そこが出発地点なのだから。


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