鬼さんこちら、手のなる方へ

鬼さん、鬼さん
「こちら」はどちら?

こちらは
花が咲かんと夢ばかり咲く
風が吹かんと法螺(ほら)ばかり吹く
己(おのれ)が動かんと時ばかり動く

鬼さんこちら
手のなる方へ……

手のなる方へと、目隠し鬼さん
手をかざしても
触れるは、おまんの鼻ばかり
鼻は伸びて天高く
どうだどうだと、鼻持ちならず
かもとりごんべえに成り下がる。

鬼さんこちら・・・・・・あしたはどちら?
・・・・・・・・・・・・手のなる方へ。













みいちゃった

みいっちゃった、みいちゃった
夜明けノ晩ニ・・・・・・
  あかん
  知らんふりやで
  もしも、言うたら?
言うたら、針、針千本呑おますっ。   
  嘘は言わん
  閻魔さまにもばれんよう
  指きりげんまん、指きりげんまん
-----------------------------指切ぃった


みいちゃった、みいちゃった
太郎ト花子ガツールンダ!
  しいっ
  壁に耳あり
  誰にも言わんと…

言わんと、ないしょの話はあのねのねっ。     
  おっかさんが聞いても
  おっとさんが聞いても
  いいっこなあしよ
井戸の回りで♂傘♀書いたのだあれ?


みいちゃった、みいちゃった
ウシロノ正面ダアレ?
  「 花ちゃん 」
  ほらっ
   やっぱりな
  言うた……言うたら?
言うたら――
そなたのお首をちょんと切るぞぉ。  
  
  太郎さあ、おごるし
  花子さあ、恥かくし
  しかたなくなく鬼は山へと逃げる
  
チョッキンチョッキンチョッキンな
 












かくれんぼ

ひとおつ
ふたあつ
みいっつ
  
あっ、もうかぞえんで
ほら、おにが
こっちをのぞいてるけん

「 くきちゃんめっけ 」
    
あっ、また、あたし
だけど、さっきから
ずうっと、あたしばっか
なんで・・・ 

「 くきちゃんめっけ 」 

よおっつ
いつうつ
むうっつ
  
あっ、もうそんなん
だめ、やっぱり
あたしをみちょるけん
くきちゃんの番
そう、あたしの番
でも、さっきから
ずうっと、あたしの番
なんで・・・
  
「 くきちゃんの番やけん 」


なな
やあ
ここの  
   
あっ、まってまって
とうで、おしまいね
おにが 泣いとるけん

しくしく
泣いとるけん















たを忘れたアカオニは

うたを忘れたアカオニは
泣いて泣いて山奥の
人こそ知れぬ苔寺で
御霊(みたま)の番をしてござる

うたを忘れてもう幾年(いくとせ)
こころのお背戸も朽ち果てて
涙の糸の裂け目から
鬼の亡者が増え続け
「魂(たま)はここじゃ」と叫びよる

うたを忘れたアカオニは
枯れて枯れて故郷(ふるさと)の
青い月夜の砂浜で
御霊の小舟に乗せられて

うたを忘れたヒトビトに
喉震わせて血反吐(ちへど)はき
いのちの海の波間から
ナクシタ言霊(ことだま)見つけては
「 魂(たま)はいらんか 」 と売り歩く

今日も今日とて売り歩く

「 魂(たま)はいらんか 」 と売り歩く
      
今日も今日とて売り歩く









寝ぼけまなこのネギ坊主


居眠りしてたらいつのまに 風におんぶのネギ坊主
夕陽の傘を差しながら ひとりぽつんと村はずれ
通りかかった鬼やんま「おまえの臭いはたまらん」と
傘の上に屁をこいた  はた迷惑じゃと屁をこいた

よそみしてたらいつのまに 寝ぼけまなこのネギ坊主
一番星にも笑われて うえーんうえーんと洟(はなしる)垂らす
通りかかった鬼オコゼ「おまえの洟たまらん」と
素麺みたいに食いよった これはうまいと食いよった

びっくりしてたらいつのまに 色気ずいたかネギ坊主
まん丸お月さん手鏡に 後れ毛ゆるりと巻き上げた
通りかかった鬼蜘蛛が「おまえのうなじはたまらん」と
星を飾りに巣を張った 絹の錦糸で巣を張った


居眠りしてたらいつのまに 風に起こされネギ坊主
ひんやり夜明けの露に濡れ 伸びて伸びて白い足
通りかかった天邪鬼(あまんじゃく) 「おまえの足はたまらん」と
あっという間に腹ん中 むしゃむしゃがぶりと腹ん中

よそみしてたらいつのまに 寝ぼけまなこのネギ坊主
田んぼのタニシにも笑われて イタイイタイと洟垂らす
通りかかった山姥(やまんば)が「おまえの泣き声たまらん」と
こらえにゃいかんと灸(やいと)した 熱い熱い灸した

びっくりしてたらいつのまに 大人になったかネギ坊主
涙の代わりに種飛ばす ふうわりふうわり夢の種
通りかかった鬼の子が「おまえの種はたまらん」と
ひと粒蒔いてはうた唄う 花咲かせちゃるとうた唄う









*悲しい事件に巻き込まれたこどもたちに・・・





まっててね

まっててねって
いったやんか…まっててねって
  
あれからね、かあちゃんは
爪をかむんよ。
夜も眠れんて、時々、泣くんよ。
篭いっぱいの蛇いちご
爪まで真っ赤だったと
また夏が来るって
ひと粒食べては……泣くんよ。

まっててねって
いったんよ…まっててねって
  
さっきもね、ばあちゃんは
鼻をかむんよ。
手を合わせながら、今朝も、泣くんよ。
風に揺れとるカリンの実
鼻につうんと染みよるって
まだ秋が来んのに
ひとくち齧っては……泣くんよ。

まっててねって
いうてもね……

まっててねって
いうてもね……   

  


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