こころの中はまるで「のぞきからくり」・・・
つぎからつぎと生まれてくる想いたちが、ふしぎな絵物語の世界にわたしをいざなう。
2003・3・13
くきゑめ
Bloom 〜 愛の花
あなたは扉を開く
あたしは光を吸う
月はおもわず眼をほそめ
星はしらずしらずに睫毛を濡らす
あなたは夢を爪弾く
あたしはいまを彩色(いろど)る
月はしなやかに踊り
星はおもいおもいしあわせを語る
あなたは愛を垂らす
あたしは蜜にとける
月はとっくに満ちて
星はあまいあまいかほりに酔う
Spell-bound 愛の糸
人が閉ざした心を愛で開く 時
皮肉に も
愛は呪縛の世界に人を閉じ込めて しまう
…そして幻惑は舌舐めずり しながら
麻痺した感覚 に
甘美な糸を纏わり つかせ
わたしの心を緋色に染めて いく
営(いとな)み …be
born
種が蒔かれた
妻は子を孕(はら)み
毒の吹き矢を吐き出し
母になる
夫は両手を挙げ踊る
斧は祭壇に祀(まつ)られ
父になる
夜を旅立った風は
十二粒の星を流した河に
雨を吸った虹と一緒に
朝を浮かべる
足早に照れる夕陽を
月は十回追いかけて
大地に割れた歓びが
広がる
産声をあげ 子は
澄んだ二つの穴に
碧い石を埋める
空が生まれる
エンド・マーク
生贄(いけにえ)は
すぐには
呑みこまれずに
生き血を搾(しぼ)られ
わたしは
誰のものでもなく
あなたの中に
儀式の定めどおり
身を捧げられる
だから
滴る血は
悲しいエンド・マーク
愛の終わりを
滲ませる
い の ち
手に 掬(すく)う 一匹の いのちの跳ねるを 見る
胸に 抱(いだ)く 一対の いのちの重なるを 悦(よろこ)ぶ
目を 瞑(つむ)る 一瞬の いのちの過(よ)ぎるを 悼(いた)む
心 剥(は)がす 一生の いのちに阿(おもね)るを 我に問ふ
もういいかい… もういいよ…
喘ぐ遠吠えは
偶然の山間(やまあい)に谺(こだま)し
愛の幻をあたしは探す
切ない鼓動を
だましだまし
なんどもあなたを誘う もういいかい…とあなたを誘う
たわわなその胸は
時の谷間に隠し
夢の嘘には針を刺す
悶える鼓動に
鍵を与え
耳元であなたに囁く もういいよ…とあなたに囁く
「モノローグ」というシアター
映像の中で
カメラが
脚本どおりの目線で
現実をひとつずつ
拾ってく
観客の期待を裏切りながら
物語が展開する
無言のまま
感情というあいまいな生き物が
ごそごそと動き出す
空気が少し焦げる
いい具合に焼き上がる
ENDマークが
ぼやけて幕が下りる
余韻を遮断して
照明が足元を照らす
うずくまったまま
落とした涙を拾う私が
いる
カナシミが
ハガレナイ
ハガレナイ
ボクの
カナシミが
目の前に横たわる
それを
イイワケが
溢れる涙の花束で飾る
ワスレタイ
ワスレタイ
ボクの
クルシミが
足元にしがみつく
それを
オモイデが
変らない笑顔のままで
抱き寄せる
ボクは
セツナサに
コボレ落ちたものを
撒き散らす
だから
イツマデモ
イツマデモ
ボクの
カナシミは
あちこちに横たわる
ものがたり
躊躇( ためら)いのプロローグ
鳴り響いて宿命( さだめ)
ときめいてフォルテ
くちうつしの ものがたり
うつろいのエピソード
爪弾( つまび)きて一瞬
凍てついてアンダンテ
まちぼうけのものがたり
退廃( たいはい)のエピローグ
くちずさむは過去( あのひ)
さびついてピアニッシモ
なまごろしの ものがたり
文盲(
もんもう)の娼婦に 明日は映らず
聾桟敷(つんぼさじき)にされたこどもに 今日は告げられず
青息吐息で
場面は「ものがたり」の中に
置き去りにされたままで
時が息絶えるのを
「主人公」は初めて 見たのだろう
かんたんふ!の ものがたり
手鏡
往生際(おうじょうぎわ)にしゃがみこみ
手鏡に覗く ためらいが
すうーっと横を 過( よ)ぎる気配
「いいのです」と 言いたいけれど
知らぬ存ぜぬ通せば
あきらめて 腰をあげるかとも
想う 佇むその影が
「いいのですね」と 問い掛けてくる
魔が差すという言葉が
息を吹き返して
返ってコトをこんがらがらせるので
「いいのですよ」と 言い聞かせながら
べとべとと体躯(からだ)に
黏( ねば)る あなたの空気を
わたしは また吸い込んでしまう
・・・・・・もどかしいのです。
彼女と…カノジョ
風と戯れながらフェアリーベルが
野葡萄の種のようなつぼみをふくらませて
柔らかな小花を咲かせてる。
朝焼けと水色の空に溶かされた淡い淡いうす紫。
その生まれたての花の首に頼りなげな細いつるが
いつのまにか自分のからだを巻きつけている。
静かにじわじわと締め付ける。
ささくれだった足元は色もなく枯れたようにしなびてる。
折れそうな心もとない枝はするするとその手をあちこちに伸ばし
誰かれにしがみつく。
そして、施しを受けるもののせめてものお礼にと
そこに丹念につぼみをくくりつける。
いくつもいくつもくくりつける。
けなげなその姿に誰もが騙される。
クレマチス
クレマチス
その花言葉は「たくらみ」
企てはまんまと功を成し
気高くつんと咲いた大輪の紫は
深く深く人の目を魅了する。
和名を「テッセン」という。
翌朝風が通り過ぎた後も
巻き取られた小首をもたげてお日様を探しながら
それでも、フェアリーベルは可憐な花を咲かせてた。
クレマチスのスポットライトのその影で
ちいさなティアラを咲かせてた。
(*)フェアリーベル ナス科ニーレンベルギアの一種
西病棟456号室
誰かの息遣いに
私のイノチが
目を覚ます
壁が呼吸している
幾筋もの涙を這わせながら
呼吸を繰り返している
イクツノイノチヲミオクッテキタノダロウ
落ち着きなく 窓が共鳴する
空気は 深い夜に沈みこんでいたが
闇を支配する 時間( とき)が
生爪をじわりじわりと剥ぐように
夜を 追い詰める
東の空に真っ赤な鮮血が滲む
麻痺した部屋の中では
朝の光が 時間と融合しだす
イクツノイタミヲスイトッテキタノダロウ
壁は
また大きくひとつ
深呼吸をする
壁の哀しみを吸い込むように
私のイタミも
静かに深呼吸を する
パラドックス
―――――― 砂時計
落ちる 落ちる 砂の中
時が
ぼくを浚(さら)う
弾かれた夢が
埋まる 埋まる 無限の底
時が
ぼくを包む
痞( つっか)えた心が
目覚める 目覚める 彷徨の末
時が
ぼくに絡む
空回りの今日が
滑る 滑る 終結の穴
時が
ぼくを手招く
そして
また
落ちる 落ちる 砂の中
Evaporate・・・消滅
運命は脳を攪拌して
心を無限の時間の迷宮に
引き籠らせる。
そして、
私の身体は透明な浮遊体に
覆われる。
精神科医は、
脳の酸化を阻害する薬を
処方するが、
セロトニンは増殖を止められず、
ニューロンは行き場を見失う。
いつしか、
浮遊体に吸収された私の身体は
元素に還元され
時間の空間に漂いながら
やがて・・・気化してゆく。
Inconsistency・・・矛盾
生への拒否は朝の目覚めの不快感から始まる
だが、本脳的な自己愛は自らの開放を
肉体的抹殺だけによる「死」に
委ねようとしない。
矛盾という言葉の深遠を垣間見る時間が
とぼとぼと歩き出す。
衝動は耐え難く常に不安を伴いながら
私を苛立たせるばかり・・・。
この“足掻き”の中で
ひたすら自分を押し殺すことによって
しばらく、無言の戦いを甘んじて受けることになる
限度はある。 免疫が欲しい。ただ、それだけのことなのだが・・・。
パズル
灰色の砕け散った時の中で
未来という瞬間に甘えながらも
存在の不透明さを蘇らせる 時間が ある。
絶え間ない流れに漂いながら
狂気に付随する悦びを 見逃さない
と、 いえるだろうか。
陶酔の世界に写る映像が微かにぼやける とき、
焦点を結ぶ網膜は眼光を持て余してしま う。
答えは
希薄で、軽薄で、美薄で
炭酸水の泡のように 儚く虚しい。
灰色の砕け散った時の中で
再び 「のぞきからくり」の謎解きに遊ぶ
ひとが いる。
水蜘蛛( みずぐも) -------- amenbo
おんなは遠い目で過去を抱き寄せ
目の前の蜘蛛の巣を左手で払う
おとこの喉元に爛( ただ)れたくちびるを這わせながら
右手に掴んだ蜘蛛をおとこの口の中に投げ入れ
蜘蛛は驚きもせず
おとこの口の中に糸を吐き出し
またせっせと巣を張る
たちまちおとこの躯( からだ)は蜘蛛の巣だらけ
見ていたおんなもおとこの中に絡(
から)め取られ
そして
おとことおんなは時空に漂う蜘蛛になる
やがて
おとことおんなから生まれた蜘蛛の子たちは
時の透き間からこぼれ落ち
水面(みなも)に浮かぶ水蜘蛛になる
水底(みなそこ)には沈んだ過去がまどろむ
おとことおんなが残した曖昧な夢が
写し絵のように揺らいでいる
気まぐれな風と戯れるさまは舞舞虫
足跡はすぐに時に攫われていくけれど
その度にいくつもの波紋が
水底で沈むおとことおんなの 空を舞う
薄羽蜻蛉(うすばかげろう) ------- arijigoku
蟻地獄と呼ばれる
擂り鉢の底で
潜む「生」がある
嵌まりこんだものは
あがくことも
許されず
のみこまれたまま
幼きイノチに
「生」をつぐ
イノチは
紫の夕凪に色を染め
灯( ひ)に導かれるままに
夢幻のときを浮遊する
薄羽蜻蛉
おのがあさましき生き様を愁い
密やかに時空を行き来する
薄羽蜻蛉
儚きイノチは
儚きままに
新しき「生」をこの世に残し
うつろう幽玄の淵で
美しき姿たおやかに
「生」の終わりの羽を止む
鼓豆虫
---------- mizusumasi
わたしのなみだの水面で
みずすましはしらんふり
波紋のロンドで回ってる
かなしみ沈めた水面で
わたしのゆめを掻き回すのはだれ?
浮かべた無邪気なおもいでも
あの日のままで溺れてく
目を覚ましてちょうだい
耳を澄ましてちょうだい
わたしのなみだのざわめきに
みずすましはおどろいて
波紋の音を掬( すく)ってる
水上の黒い鼓豆が
転がりながら
くるくる回って
空回りとは知らないで
波紋のいらだち鎮めてる
私のデーミアンへ
私を取り巻く虚空に見える無数の斑点が
日増しに苛立ちを感じさせる。
消えては生まれる無色透明の輪の中に
いまに私も侵されてゆくのだろうか。
見てくれだけの幸せが私を攫いに来る。
虚脱を拒む術がいま私には途切れている。
眼光は期待を裏切りだしている。
狂うのだろうか・・・・・・・・・?
私の中のシンクレア
*ヘッセ「デーミアン」
言葉は脳を操作しココロを翻弄する
時間は脳を躍らせココロを埋没させる
欲望は脳をレイプしココロを冒涜する
睡眠は脳を飽和しココロを枯渇させる
そして、日常が脳とココロを侵蝕していく
軌跡
腋下に 滴(したた)りて 汗
三つ巴の糾( あざな)う縄
目の前に揺れるも
戒( いまし)めの処刑台に
項垂( うなだ)れて 首( こうべ) 晒(さら)す
足元の 轍( わだち)には
抉( えぐ)りし我が 痕跡
汚泥( おでい)の溜まりにも
魚の居て
逃げ水の際立ちて
薄日の
差す
Days
誰でもなにかを探してる
今日のルージュ迷いながら
彼女は乾いたくちびるに
おきまりの はだかの日常を…塗りつける
誰でも時にはなみだする
鳥かごを吊るしたまま
彼女は死んだカナリヤに
喉枯らし 虚ろな瞳で…愛語る
誰でも誰かを待っている
凍える指で名前なぞって
彼女は錆びた燭台に
くちずけて 忘れた温もり…灯してる
今夜はワインに酔いながら
彼女と彼女と・・・そう、彼女たちの旅立つ日
想い出はひび割れた舌の上で 一晩中踊り続け
悲しみは途切れ途切れに 終わりのない旅をする
誰もがほんとは気づいてる
窓辺の鏡に昨日を映して
彼女は褪せたカーテンに
今日もまた ありふれた日々…束ねてる
永遠
ああ君の瞳に“永遠”を見つけたよ
だけど僕はいま僕には逆らえない
君の瞳に溺れても 僕の全てを見せられず
永遠の罰受けたカインの未来は
・・・すぐ目の前なのに
終( つい)の 棲家( すみか)はいつだって隠されたままで呆然と
そして、永遠の罪悔やむ旅人の重い荷物のように
過去は何処までも背中に張り付いてくる
ああ君の瞳の“永遠”を抱きしめて
そうさ僕はもう誰にも邪魔はさせない
君の瞳に吸い込まれ 僕の全てが消えようと
永遠の道探す時間が「生」ならば
・・・それも一瞬のうち
忘れ物をした自分に気がついたぐらいそんなもの
そして、永遠の扉開けるほんの一瞬に「死」は訪れる
何か言い訳を見つけたその瞬間にね
君の瞳に“僕の愛”を投げ入れた
だから僕はもう僕にも邪魔はさせない
君の瞳が閉じる時 僕の全ては君のもの
永遠の愛誓った恋人たちも
・・・いつか忘れられて
時の記憶の葛籠に捨てられていく運命(
さだめ)
そして、永遠の祈り捧げる天使の顔で悪魔は嘲(
わ)笑( ら)う
羽付け哀しみが飛んでゆく闇の入口で
ああ君の瞳に“永遠”を見つけたよ
だから僕はもう僕にも邪魔はさせない
君の瞳が閉じる時 僕の全ても永遠に・・・そう永遠に